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真実1 9
「でもね、僕がアイツの子供だってことは、ごく一部の人間しか知らないんだ」
「ごく一部の人間って……。でも籍は入ってるんでしょ?」
「ううん、それも入ってない」
「入ってない……?」
おうむ返しの佑月に、樹くんは苦笑して頷いた。
「僕が成人したら入れるってことらしいけど、僕らの存在すら忘れられてるのに、笑わせてくれるよ」
吐き捨てるように言ってから、樹は鬱憤を晴らすように、詳細を語ってくれた。
樹の母親は二十歳の時、円城寺のホテルでフロントスタッフとして働いていた。
見目も美しく、高級ホテルのフロントの華としては申し分ない存在だった。
そんな彼女が円城寺の目に止まり、徹底的に身辺調査まで行われたようだ。身寄りがなく、金銭面も全く余裕がない彼女は円城寺にとっての、好餌 となった。
一生金には困らない生活をさせてやる。好きな物も何でも買ってもいい。
その代わり、自分との子供を産めと。
もちろん彼女は断った。お金がなくても、家族に憧れが強い彼女は、普通に恋愛をして、家庭を持ちたい夢があったからだ。
だが円城寺は、それを断ると会社を首にすると脅しをかけた。そして辞めた後も、どこの企業にも就けないようにするとまで。
日本屈指の大財閥の前では、彼女は余りにも非力な存在。
強い反発もあっただろうに、当時の彼女の気持ちを思うと、察するに余りある。
この大きな邸宅も、彼女らにとっては牢獄のようなものだろう。樹が自らを道具と言ったのも、こういった経緯があったからだ。
親子二人の人生を踏みにじる行為は、どうしたって許せない。
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