311 / 444
真実1 10
「でもね、僕らだってこのまま終わらせるつもりは無いんだよ? 僕を作った事を後悔させてやるって、ずっとそれだけを生き甲斐に生きてきたようなものだから。……まぁ、それでちょっと息が詰まったんだけど……」
「それって、ずっと家に帰らなかったっていう……」
「そう。将来の為にはあらゆる勉強が必要だったしで必死だった。それで母の心配がすごく煩わしくて……。でも、心配しないで。今はちゃんと帰ってるから」
ここで初めて少年らしく、樹は恥じらうように笑った。
「あの時は、何も知らなかったとは言え、偉そうに説教なんかして、ごめん」
頭を提げる佑月に陽気な声が降ってくる。
「何で成海さんが謝るんですか! そりゃあ、あの時はちょっと頭にきたけど、やっぱあの言葉は効いたから。“皆が皆、平等に明日は訪れるとは限らない”ってやつ。まさにその通りだなって。明日死んでしまったら後悔してもしきれないし」
多感な年頃だからこそ、素直になれない時がある。でも、ずっと親子二人で力を合わせてきた子だから、母親はとても大切な存在なのは当たり前。
佑月が説教をするまでもなかったわけだが。樹は初めの印象と違って、ずいぶんといい子のようだ。
いい子だけに、今回の目的のことを思うと、佑月はかなり辛いものがあった。嫌ってる親だと言えども、親には変わりないから。
「成海さん、僕はアイツをトップから引きずり下ろすつもりだよ」
「……は? え? 円城寺を?」
「うん」
樹が力強く頷いた時、部屋の扉をノックする音が響いた。
呆然とする佑月を余所に、樹は「入って」と声を上げた。
「失礼いたします」
慇懃に頭を下げてから部屋へと入ってきた人物に、佑月は驚くと同時に、頭の中は疑問符で埋め尽くされていく。
「櫻木さん……?」
「はい、左様でございます」
未だ呆然とする佑月の前で、櫻木はもう一度頭を下げてきた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!