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真実1 10

「でもね、僕らだってこのまま終わらせるつもりは無いんだよ? 僕を作った事を後悔させてやるって、ずっとそれだけを生き甲斐に生きてきたようなものだから。……まぁ、それでちょっと息が詰まったんだけど……」 「それって、ずっと家に帰らなかったっていう……」 「そう。将来の為にはあらゆる勉強が必要だったしで必死だった。それで母の心配がすごく煩わしくて……。でも、心配しないで。今はちゃんと帰ってるから」  ここで初めて少年らしく、樹は恥じらうように笑った。 「あの時は、何も知らなかったとは言え、偉そうに説教なんかして、ごめん」  頭を提げる佑月に陽気な声が降ってくる。 「何で成海さんが謝るんですか! そりゃあ、あの時はちょっと頭にきたけど、やっぱあの言葉は効いたから。“皆が皆、平等に明日は訪れるとは限らない”ってやつ。まさにその通りだなって。明日死んでしまったら後悔してもしきれないし」  多感な年頃だからこそ、素直になれない時がある。でも、ずっと親子二人で力を合わせてきた子だから、母親はとても大切な存在なのは当たり前。  佑月が説教をするまでもなかったわけだが。樹は初めの印象と違って、ずいぶんといい子のようだ。  いい子だけに、今回の目的のことを思うと、佑月はかなり辛いものがあった。嫌ってる親だと言えども、親には変わりないから。 「成海さん、僕はアイツをトップから引きずり下ろすつもりだよ」 「……は? え? 円城寺を?」 「うん」  樹が力強く頷いた時、部屋の扉をノックする音が響いた。  呆然とする佑月を余所に、樹は「入って」と声を上げた。 「失礼いたします」  慇懃に頭を下げてから部屋へと入ってきた人物に、佑月は驚くと同時に、頭の中は疑問符で埋め尽くされていく。 「櫻木さん……?」 「はい、左様でございます」  未だ呆然とする佑月の前で、櫻木はもう一度頭を下げてきた。

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