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真実2 3
円城寺に声を掛けられた男は、まるで円城寺など目に入っていないかのように、車へと乗り込もうとする。
すると円城寺は笑みを貼り付けたまま、自身の車へと振り返った。
「佑月、来なさい」
円城寺のその一言で、車に乗り込もうとしていた男は動きを止め、一瞬だが眉間にシワを寄せたのが佑月から見えた。
呼ばれた佑月は思わず舌打ちをしそうになった。だが、こんなところで舌打ちなどすれば、前に座る二人に不信感を買ってしまう。
すんでのところでやめることが出来たが、佑月にはホッとする間もなかった。
(円城寺のやつ……)
佑月は渋々と外へと降りるが、夕方の冷たい空気が身体の体温を一気に奪っていった。
冷気が冬のせいだけではないことも肌で感じている。ピリピリと、周辺の空気だけが凍り付いているようだ。
佑月はごくりと喉を鳴らして、相手の男の顔をチラリと窺い見る。途端に佑月の心臓は大きく震えた。
男は、無表情で佑月を見ていた。その表情を見ただけで、佑月は逃げ出したくなった。
あれから十日ぶり。そんな中での再会。
佑月の目の前には、相変わらず雄の魅力を纏ういい男、須藤がいた。
だが、あの日から顔を見るのは今日が初めてだったのだ。だからなのか、何かギクシャクとした緊張が佑月にはあった。
「何の用だ」
佑月からスッと視線を外した須藤は、もう完全に興味を失ったかのように、冷めた双眸で円城寺を一瞥した。
「悪いね。そんなに時間は取らせないよ」
「ちょ……」
佑月にとっては針のむしろのような状況。
だがそんな佑月の心境など知らぬとばかりに、円城寺は須藤に見せつけるように、佑月の腰を抱き寄せてきた。
佑月は咄嗟に押し退けたい衝動に駆られたが、それも何とか堪えた。
しかし、須藤がどんな顔をして自分を見ているのかは、佑月は怖くて見ることは出来なかった。
「私の佑月が、短い間だったが、君の世話になったようだから、私からお礼をどうしても言いたくてね」
佑月はそこで思わず顔を上げてしまった。
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