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真実2 9
「雪斗のbarには毎日のように通ったものだよ。誰にも分け隔てなく接する雪斗は、本当に素晴らしい人間だった」
それが一年以上続き、時間が合えば、二人で飲みにも行く間柄にもなっていた。
だがあくまでも雪斗はノーマルな人間。櫻木が言っていたが、円城寺はひたすら、自分の感情は押し殺していたようだ。
そんな折、円城寺は雪斗から恋人が出来たと聞かされた。その恋人というのが、のちの佑月の母親となる女性だ。
十八歳でキャバクラに勤めていた母……マリカが、自身の店前で客である男に強引に迫られていた。そこを偶然通りがかった雪斗が、マリカを助けた。それがきっかけとなり、二人は交際を始めたのだが。
「彼女を助けたまでは良かった……。だが、その相手が悪かったのだ」
「やくざの人間だったんですよね」
「あぁ……」
雪斗はマリカを助けたことにより、やくざであった橋村という男から、長きに渡り、執拗な嫌がらせを受けていた。
マリカをひどく気に入っていた橋村にとって、雪斗は邪魔な存在でしかなかったからだ。
当時の円城寺は多くの仕事を任され、なかなか時間を作れずにいた。
雪斗は一人で抱え込み、誰にも相談出来ずに悩んでいた中でも、愛するマリカと結婚した。
そして、最愛の彼女と、生まれたばかりの最愛の息子を残して、雪斗は橋村によって命を奪われた。
雪斗が二十五歳の時。それは今の佑月と同じ歳の時だった……。
本来なら幸せな家庭を築いていただろう。幸せ半ばで突然奪われた命に、佑月の胸は酷く痛んだ。
「私があの時、直ぐにでも気付いていれば、彼は助かったかもしれない。あの橋村という男に、やくざという人間のクズに、私の大切な雪斗が奪われた」
悲痛な叫びにも聞こえる円城寺の声。大切な人を失う辛さは、はかり知れぬものだ。
だが、それから円城寺が行った事が問題だったのだ。
「円城寺さん、貴方はそれで、やくざというものを破滅に追い込もうとしたのでしょ?」
「それも彼から聞いたのかい? あぁ、そうだよ。憎きやくざをいつか滅ぼしてやろうと、私は色々策を練った」
「それが……」
佑月はごくりと唾を飲む。
この先の言葉は円城寺自らの言葉で言わせたかった佑月は、自分がそれを口にするのは憚れるとばかりに、口をつぐんだ。
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