「酔いも覚めたので、俺は失礼します」 「泊まっていけばいいものを。今日はもう、何もしないよ」 　佑月はベッドから腰を上げ、円城寺へと振り返った。微笑みを浮かべる円城寺。その表情からは、何を考えているのかは分からない。 「失礼します」 　それだけ告げると、佑月は足早に部屋から脱け出した。 「何が今日は何もしないよだ……」 　一刻も早くここから出たい佑月の足は、自然と駆け足状態になる。そして大きな螺旋階段を下りながら、溜め込んでいた肺の空気を一気に吐き出した。 　まだ円城寺のテリトリー内のため、安心するには早すぎだが。 　途中で出会った櫻木に、佑月がこっそりと無事をアピールすると、彼はホッとしたように胸を撫で下ろしていた。 　追ってくるかと思った円城寺は、その気配も見せずに、佑月は無事アパートへとたどり着いた。部屋に入った途端、どこかで見ていたかのようなタイミングで、黒いスマホが着信を知らせてきた。 「もしもし、うん、いま家に着きました」 　佑月はスマホを耳に、部屋のエアコンを入れる。少しカビ臭い匂いを放ちながら、温風が流れてくる。やはり自分の家はホッと出来ると、佑月は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルトップを開けた。 「え？　ビールです。別にいいじゃないですか。え？　あぁ……今日の事は俺も知らなかったから、怒らないで下さいよ……」 　佑月はベッドをソファ代わりに、壁に背中を預けて足を投げ出した。電話の相手は不機嫌な声。だが聞いているだけでも心地よくなれるのだから、不思議だ。 「それよりも、今日やっとできました。明日届けてくるから、例のアレお願いしますよ？」 　受話口で何やら文句が聞こえてくるが、佑月は何とか宥めすかした。 「うん、ありがとう。うん、俺も……。じゃあ、おやすみなさい」 　通話を切ると、一気に静寂が訪れる。余韻に浸りたかったが、飲みかけの缶ビールをテーブルに置くと、佑月はスーツを脱ぎ捨て、直ぐにシャワーに打たれた。 　円城寺が触れた部分を浄化するように、首筋から念入りに身体を磨いていく。 「気持ち悪い……」 　目頭が熱くなるのは、色々とショッキングな事があったからなのか、一気に箍が外れたせいなのか、佑月自身も解らなかった──。