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薔薇
◇
「成海さん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、滝川さん。今日はよろしくお願いします」
【J.O.A.T】の事務所が入る雑居ビル前。
高級車の後部座席のドアを開けて待つ滝川に、佑月は頭を軽く下げてから乗り込んだ。
「少しお痩せになったのでは……?」
「……最近バタバタしてるせいかもしれないですね」
滝川はルームミラー越しから、痛ましげに視線を寄越した。
「どんなことがあっても、私はずっと成海さんの味方ですし、力にもなります。だからどんどん頼って下さい」
「ふふ、それじゃ、滝川さんの主人は拗ねてしまうかもしれませね」
「いやあ、あははは。ですよね」
豪快に笑う滝川に、佑月は久しぶりに心が和む気がした。最近では陸斗らともお互いが忙しくて、ゆっくり話す時間がなかったからだ。
「成海さん、お預かりしたデータは必ずお渡ししておきます」
「はい、何から何まで頼りっぱなしですが、よろしくお願いします」
「いえ、ですから、どんどん頼って下さい」
「さっそくのお力添えありがとうございます」
「はい!」
滝川にはいつも言葉に嘘がない。だから佑月は滝川のことを心から信頼していた。
事務所から出発して四十分程。車窓から流れる景色は、都市部とは百八十度違う、寂れた山間部。
佑月はとある施設を訪ねるため、昨日の電話の相手に、段取り等を頼んでいた。滝川を付けることを条件にはされたが、一人で行くよりは気持ちが楽であったため、佑月には何も異存はなかった。
車が到着すると、待ちかねていたかのように、玄関口には三十代後半くらいの優男が立っていた。
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