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薔薇 4

「何か用とはお言葉ですね。貴方のお陰でこちらは散々な目に遭ったのに」  佑月の剣のある言葉にも、どこ吹く風の(てい)で、リアンはずっと右手を動かしている。  あれは一体何をしているのか。爪が剥がされているのなら、握ればかなりの痛みを伴いそうなのに。  リハビリのつもりか……佑月は少し気になったが、今はそれどころではない。 「忘れたとは言わせませんよ。“松本 学”に“島田という老人”そして事務員風を装った女。島田という老人に関しては見れていませんが、お見事な変装でしたよ。黒衿会の件では、村山を唆し、俺を潰そうとした。俺だけならまだ耐えられるけど、あんたはウチの大切なメンバーも巻き込んだ」 「それで僕が許せない? フフ、終わったことをねちねちと、成海さんって結構根に持つタイプなんだね」  クスクスと鈴が転がるように可愛らしく笑うリアンが、佑月には癪に障って仕方がない。何も反省などしていないことを、痛感させられたからだ。 「そうですね。そうやって平然としている態度を見るだけでも、腹が立ちますね」 「フフ……そんな風だから、須藤さんにも捨てられるんですよ?」  須藤の名前を自ら出して、その白い肌を少しの朱に染める。リアンがまだ須藤のことが好きなことが分かった。   「捨てられた? 俺がなぜ捨てられるんですか」  佑月がそう言えば、リアンは一瞬間の抜けた表情を見せた。そして直ぐに噴き出すように、お腹を抱えて笑いだす。 「あははは……うん、分かるよ? 現実を見たくないのは……でも、あの人は飽きれば簡単に捨ててしまうし、面倒な人間は特に嫌悪してるからね」  笑われる佑月だが、それを冷静に見返す。それを見て図星を突かれたとでもリアンは思ったのか、笑い転げる勢いで身を捩っていた。 「笑うのは結構ですが、そもそも何故俺が捨てられたことになってるのか、不思議なんですが。別れてもいないのに」  佑月は理解不能といった風に小首を傾げてみせた。

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