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薔薇 5

 そこでリアンはピタリと笑うのを止めた。 「誰がそんなことを言ったのでしょうか。須藤さんも他人にそのような事は、一切口にはしていないはずなのに。貴方は誰から聞いたんですか?」 「誰からって、僕は確かに、アンタが“傍にはいられない”って言っていたと聞いた。それってつまりは別れたってことでしょ?」  リアンは強い確信を持って言い放つ。 「傍にはいられないとは、確かに俺も口にはしましたけど、別れたとは一言も言ってません。それにそれは、俺の事務所内で、メンバーだけに話した事なのですが」 「そのメンバーの誰かが周りに言ったんじゃないの?」  馬鹿馬鹿しいとリアンは鼻で笑う。 「それはないです」 「なぜ?」 「信頼の置けるメンバーが、他人に吹聴するなど絶対にないからです。ただ今回に関しては、予め彼らに事情をちゃんと説明をしておきましたがね」  リアンの先程までの余裕顔も、少しずつ鳴りを潜め始めている。 「……何を言ってるのか、さっぱり分からない」 「これでも分からないですか?」  佑月は手のひらに収まる小さな物を、リアンへと放り投げる。  リアンの膝の上に、ポスッと黒い物が乗る.リアンはそれを手に持つと、フッと笑う。 「ふぅん、なるほど。色々楽しませてもらったけど、もうここから動けないから、これは必要ないけどね。でも、よく見つけたね」 「須藤さんに言われたので」 「……」  黒い物体は盗聴器だ。  須藤から渡されていた二つの機器を、佑月は真山から受け取った。その内の一つであった盗聴器発見器。これで事務所内を調べろと伝えられたのだ。

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