332 / 444
薔薇 7
自分でも最低なことをしている自覚はある。誰かを想う気持ちを利用し、そこに付け入る真似。リアンにとっては、ぬか喜びもいいところであったはず。
だがそれ以上に佑月は、リアンには深く傷付けられた。謂わば目には目を歯には歯をだ。そう思うより他はなかった。だからと言って、やはり決して気分がいいものではなかったが。
佑月はドアを閉めると深い息を吐き出した。
「成海さん」
「あ……滝川さん、お待たせしました」
隣室から心配そうに、滝川は佑月のもとに駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。お時間取らせてすみません。平田さんに声を掛けたら帰りましょうか」
佑月は滝川に心配掛けぬよう、笑顔で言う。もちろんそんな佑月に気付かないワケがない滝川だったが、佑月の気持ちを汲み、黙って頷いた。
円城寺とリアンが今回共に動いていたのは、初めリアンが円城寺に近付いたのだと佑月は思っていた。
今までの流れで、リアンが策略を巡らし、佑月の過去を調べあげて、円城寺に近付いたのだと。
だがそれは逆だった。リアンが須藤に好意を寄せている事を知った円城寺が、リアンに近付いたようだ。
円城寺は佑月が欲しい。そのお互いの利害が一致し、協力し合うようになったようだが……。
円城寺などに関わったせいで、リアンにとっては、今回は大きな痛手となっただろう。
「運び屋も随分大人しくしていましたね。でも須藤様は、あれでは手緩いと仰ってます。私もそう思いますがね」
帰りの車中、滝川はそう言うが、佑月は答える事が出来なかった。あれで手緩いとは到底思えなかったからだ。だから余計に、リアンにはこれに懲りていてほしかった。
「成海さん、期限は明後日ですので」
チラリとルームミラーから滝川が視線を寄越すと、佑月は頷いた。
ついにと、佑月は拳を強く握りしめた。これで最後に出来ることを佑月は強く願った──。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!