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油断 4

「心配しなくても、スーツが皺になってはいけないから、脱がしただけだよ」  確かに下着は身につけている。しかし、下にTシャツを着ているとはいえ、ワイシャツのボタンを何故全て外さなくてはならなかったのか、佑月には解せなかった。 「いま何時ですか……」  佑月は不愉快さを隠すことなく、低く問う。 「今は午前四時過ぎだ」  腕時計を確認する円城寺。午前四時という時間で、なぜか未だスーツ姿。  下半身にも違和感がないことから、最後までされたという事はなさそうだが、何もされていないかどうかは分からない。 「俺の鞄はどこに? 返してほしいんですが」 「悪いがそれも私が預かっておく」 「ふざけんな! 仕事の大事な書類もあるんだぞ!」  もう佑月には、自分を取り繕う気もなかった。 「状況が変わったのだよ。分かるだろう?」 「帰ります」  佑月は怒りのままベッドから降りるが、強い睡眠薬だったのか、まともに立てず酷い目眩が起きる。  ふらつく佑月の身体を円城寺が直ぐに支えるが、佑月はそれを拒み円城寺の胸を強く押した。 「触らないで下さい」  少しでも油断した自分が情けなくて、腹立たしくて仕方がなかった。最後の最後でこんな痛恨とも言えるミスを犯して。 「今日は大事な取引があるから、夜まで一人にさせてしまうが、我慢してほしい。分かったね。」 「待って……」  ここから出るには、もう少し時間を置かなければ走ることも困難だ。其ゆえに時間を稼ぎたかった佑月だったが、円城寺はそれをさせまいと直ぐに扉に向かう。 「今夜はゆっくり過ごそう、佑月」 「……」  そして円城寺は早々と部屋から出ていった。

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