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油断 5

「こんなところ一秒だって居たくないのに……最悪だ」  一人になった部屋で佑月は直ぐにベッドから降りる。まだふらつくが、とりあえず服を身に付けたかった。 「服がないなんてこと……ないよな?」  クローゼットらしき扉を開けると、中はウォークインクローゼットになっていた。絶望的に思われたクローゼットの中には、沢山の服が掛けられていて佑月はホッとする。  しかしよく見れば、決して円城寺が着ることのないような物ばかり。 「……まさか、全部俺の?」  佑月の部屋だと円城寺は言っていたが、まさか服までもが揃えてある事に、佑月は薄気味悪さを感じた。  だが今は下着同然のような格好から解放されたかった佑月は、とりあえずネイビーカラーのニットと白のコットンパンツを履いた。 「ドアは……やっぱり開かないか」  ドアノブのレバーを下に押すが、びくともしない。扉も木製ではなく、まるで鉄のように頑丈な物だ。 「どうするか……」  佑月に何かあったことは、直ぐに皆が気づくはずだ。だが悠長にしている時間はない。今回の計画が狂ってしまうからだ。  スマホがないため、連絡手段がない。もしかすると、円城寺は佑月のスマホの中を見ているかもしれない。  だが万が一見られたとしても、そこから何かが漏れるような事はない。特に須藤からもらった黒い方は、セキュリティも万全だから、そこは安心出来る。  ただとにかく連絡が取れないことが、佑月にとって痛い現実だった。 「櫻木さんがこの事を知ってくれていたら……」  今は櫻木しか頼れる者がいない。佑月は気付いてくれることを強く願った──。 「おはようございます旦那様」 「あぁ、櫻木おはよう」  シャワーを浴び終えた円城寺に、櫻木は着替えの用意を整える。 「そうだ櫻木。昨夜、佑月が泊まったのだよ。“彼の部屋”でね」 「……成海様が?」  櫻木は一瞬言葉を無くしてしまった。

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