■ 　午前十時四十五分。陸斗と海斗、花が出勤してくる。 「あれ？　鍵閉まってるぞ」 「マジ？」 「あぁ」 　陸斗が事務所のドアノブをガチャガチャと回すが、強い抵抗にあう。 「珍しい。まだ佑月先輩来てないってことか」 　陸斗はそう口にしながら、鞄から事務所の鍵を取り出し、解錠した。 　三人は中に入り、海斗がエアコンを入れる。 　陸斗は鞄を自分のデスクに置いてから、ふと佑月のデスクに目をやり、その違和感に首を傾げた。 「兄貴、どうかしたのか？」 「見ろよ。佑月先輩、昨日も帰って来てねぇみたいだ」 「ホントだ。でも、オレらに連絡なしで直帰するって今までなかったよな」 「あぁ」 　佑月のパソコンのディスプレイが、開いたままになっていた。佑月は仕事が終われば必ずディスプレイを閉じる。それが開いたままということは、事務所に帰って来ていないという事を表しているのだ。 「電話してみるか？」 　海斗が心配そうな表情で陸斗に訊ねると、陸斗は佑月のデスクを見やりながら頷いた。 「ちょっと嫌な感じがするし、オレが掛けてみる」 　陸斗は直ぐにスマホをジーンズのポケットから出して、佑月の名前をタップした。 　先ずは今や仕事用となった以前のスマホの方へ掛けてみる。が、何度掛けても繋がらない。陸斗は海斗に首を振ってから、次は須藤から貰ったという“プライベート用”に掛けた。 「ダメだ。繋がらねぇ。電車かもしれねぇけど……」 「営業開始まで十分ほどあるし、もうちょっと待ってみようよ」 「そうだな……」 　花の提案に、陸斗が渋々と返事をした時、事務所の電話が鳴った。