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油断 10

 その時、扉のロックが外れる音がし、佑月は怪訝に思いながら顔を上げた。  円城寺は夜までは帰って来ないはずだ。ここを開けられるのは円城寺だけ。 なら、やはり計画が白紙になったのだと、佑月は絶望した。  扉が開き、現れたのは言わずもがな円城寺だった。 「佑月、来なさい」  部屋には入って来ず、扉を開けた状態のままで円城寺は待っている。  とりあえずこの部屋から出たかった佑月は、素直にベッドから腰を上げ、円城寺のもとへと歩みを進めた。 「何ですか」 「今から少し付き合って欲しい場所があってね」  円城寺は佑月の全身を舐めるように眺めてから、その腰に手を添えてきた。 「付き合って欲しい場所?」  佑月はスッと円城寺から離れ、睨むように問う。 「今から大事な取引があるのだが、先方が佑月の存在を調べ上げていてね……。会わせろと言ってきたのだよ」  佑月の存在を知られた事が、さも不愉快とばかりに、円城寺は憎々しげに言う。 (先方が俺に会いたい? どういう事だ……。俺の存在が何で相手に? 本当に調べたのか)  厄介な事になっていると、佑月は舌打ちしたい衝動をどうにか抑えた。 「そもそも何の取引なんですか? 俺を巻き込まないで欲しいんですが」 「佑月には危険がないようにはするよ。私も佑月を巻き込むことに胸を痛めているのだからね」 (よく言う。利益が大事なのが見え見えだろうが) 「危険があるような取引なんですか。なら、俺は行きたくないです」 「そんなこと言わないでくれないか。私にとって大事な大事な仕事なのだよ」  円城寺の困った様子に、佑月は冷めた目で一瞥する。だが何より今は、スマートフォンを返して欲しかった。だからこれはつけ込むチャンスだった。  「それなら、俺の荷物今すぐ返してもらえますか」 「あぁ、分かった。今持ってくる」  円城寺は何の疑いも無しに即答し、扉から離れていく。  良かったとホッとしたところで、佑月はここが円城寺の部屋の中だと初めて知った。

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