344 / 444

油断 12

 車に乗って五分程。落ち着いてくると、少しは頭の回転もよくなる。  その中で、先ほどカラスが言った言葉が妙に佑月の中で引っ掛かった。  カラスは佑月に対して“はじめまして”と口にした。円城寺と繋がっているのなら、あんな言い方はしないはずだ。  佑月はこっそりと運転するカラスと、隣に座る円城寺に視線をやった。  車に乗ってから二人の間では会話がない。  円城寺は時折、佑月には話し掛けてはいるが、カラスとはまるで初対面のように、妙に緊迫した空気がある。 (どういうことだ?)  それにこんなギリギリの場で、先方が俺に会いたいというのもおかしな話だ。  自分の知らない所で、何か動いてる事は確かだと感じた佑月は、この状況を見守るしか術がないと判断した。  二十分程走り、裏取引ではお約束の、とある倉庫に着いた。 「降りてください」  カラスはそう口にすると、早々と車から降りる。佑月と円城寺も無言で降り立つ。  佑月は円城寺に悟られないよう、視線だけ周囲を見渡した。  辺りはしんと静まり、人の気配がない。都市部から少し離れ、民家などはなく、コンテナの保管場所も兼ねているようで倉庫周辺はかなり広い。    少しの不安があったが、形はどうであれここまで来れた。佑月の動向はきっと彼は知ってくれているはずと、その希望に託すしかなかった。  円城寺も何やら緊張でもしているのか、車を降りてから無言だ。  カラスに伴われ、佑月ら三人は倉庫の裏口から周り中へと入った。  中は薄暗く、いきなり(ひら)けた場所となる作りではないようで、左右には通路が広がっている。  カラスは迷うことなく右手に足を向けて歩いていくのを、佑月と円城寺も付いていく。 「ではあちらの奥にボスが待っていますので」  五メートル程先にある扉を指差し、カラスは円城寺に言う。 「分かった。佑月も来なさい」  そう言う円城寺に、カラスは首を振った。 「いえ、先ず取引が先です。成海さんは私とここで待機してます」 「だが、私のいないところで佑月が危険な目に遭わないとも限らないだろう? それに会わせろと言ってきてのはそちらだったはずだ」  さも不満そうに円城寺は言う。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!