346 / 444

油断 14

 部屋に入った途端に、佑月は嬉しさで思わずその人物の両腕を掴んだ。  もうこのまま抱きしめたいくらいだった。 「滝川さん、良かった……」 「心配しておりました。無事に出られたのはGPSで確認はしたのですが、お姿を見るまでは、須藤様も不安でいらっしゃいました」  改めてスマホの充電が残っていたことに、良かったと安堵せずにはいられなかった。 「すみません。最後の最後で……。それで須藤さんは?」 「須藤様は成海さんのご無事な姿を確認した後、もう一人の協力者の元へ。ご一緒に行動されてます」 「そうですか……」  と、佑月はここでカラスに顔を向ける。 「じゃあ、彼は……」 「ええ、我々の協力者です」  滝川の言葉にカラスは微笑む。  須藤が誰と繋がっているかなど、今さら驚くことでもないのだが、やはり佑月にとっては少なからず衝撃を受けた。  中立の立場とはいえ、初めは円城寺側としての依頼で、動いていた人物だった故。だがここまで彼らが迅速に動いてくれたのは、櫻木や陸斗らの尽力の賜物だった。ここにはいない彼らに佑月は深く感謝した。  そして佑月のもとへと直接救いに来てくれたカラス。 「あの、ありがとうございます……」  佑月が“カラス”と口を開きかけると、カラスはそれを手で制してきた。 「私は泰然と申します」 「タイランさん」  泰然は佑月に微笑むと、直ぐに表情を引き締める。 「そろそろ取引が始まるようです」  泰然の視線を追いかけると、そこは向こうからもまる見えなどではと言うほどの窓が、横に連なっている。  慌てて身を隠そうとした佑月に、泰然が少し笑う。 「大丈夫です。あちらからはこちらの中は見えませんので」 「見えない……?」  マジックミラーのような物なのだろうかと、思いつつも堂々としていられずにいると、滝川が「大丈夫ですよ」と窓に近づく。  滝川の言う通り、円城寺らは驚くほど近くにいるが、がたいのいい滝川に気付く気配はなかった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!