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油断 15

 一体この倉庫はどういった趣向で、このような部屋があるのか、気にならないと言えば嘘になるが、今はそれどころではないと、佑月は滝川の隣に立った。  円城寺と一人の男。相手の男は中国人だ。倉庫内には、この二人しか姿は見えない。 「では、中身をみせろ」  中国人が覚えたてのような、片言の日本語で話すのが鮮明に聞こえてくる。   「滝川さん、こちらの声も向こうに聞こえます?」  佑月は滝川の耳元へ出来る限り近づき、小声で訊ねる。滝川はそれに首を振る。 「いえ、こちらの声は叫ばない限り聞こえません」  今更な質問に滝川は丁寧に答えてくれる。その内容に佑月は胸を撫で下ろした。  そこで円城寺の声が聞こえ、佑月は注意を円城寺へと戻す。  円城寺は自身のジュラルミンケースを腰の辺りに持ち上げ、中身を開ける。  中身はここからでも良く見え、小袋に分けられた白い粉が大量に入っていた。  中国人が頷くと、円城寺は蓋を閉じる。今度は中国人のジュラルミンケースが開かれると、中身は当然のように札束がぎっしりと詰め込まれていた。  そして、お互いのケースを交換し合う。この時点で違法な取引は成立した。 「出来たばかりの新薬が、一番に手に入る。ウレシいね」  中国人が感慨深いといった(てい)で言うが、円城寺の反応がどうもおかしかった。  この“計画”の事は、佑月には大まかな事しか知らされていない。故に須藤らがどのようにして、彼らをここに(おび)き寄せたのかは知らないのだ。   「新薬? まだそれは開発中だが」  円城寺がそう口にすると、先程まで笑っていた中国人の顔は一瞬で険しいものに変わった。 「どういうコト? 新薬が出来たからと連絡してきた。チガウか?」 「私はそのようなこと一言もいっていない。ボスであるアナタと直接話したはずですが、お忘れですか? そもそも連絡を寄越してきたのはそちらだろう? 覚醒剤を頼むと」  円城寺と中国人との間に、不穏な空気が流れ出していた。

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