348 / 444

油断 16

「チガウ! ソッチからだったね。ワタシは新薬出来た、聞いたから、取引応じた。大金も用意した! 覚醒剤、言ってナイ!」  激昂する中国マフィアのボス。見た目は恰幅よく落ち着いた風貌だが、感情は素直に出す性分のようだ。  その中円城寺は一人異変に気付き、周囲に視線を走らせているのが分かった。 「どうやら、私達は嵌められたようですね……」 「どういうコト!?」  落ち着いているように見える円城寺と、動揺を隠せず叫ぶ中国人。  双方のやり取りに佑月は息を呑み、今回の詳細を知った。  お互いに成り済ました人物が、双方に連絡を入れ、取引の場を設けたということを。 「成海佑月という男を知っているか?」  円城寺がそう問うと、中国人は小さく首を傾げた。 「ナルミユヅキ? 知らないね。誰だ? ソイツが騙したのか?」  それで全てを悟った円城寺は、金の入ったジュラルミンケースを中国人に差し出す。 「ナニしてる?」 「もう遅いとは思うが、私は帰らせてもらう。だから薬は返してもらうよ」 「そんなコトが許されると、思ってるか?」  中国人は徐に拳銃を(ふところ)から出し、それを円城寺に向ける。  さすがに銃を向けられると、円城寺も動けなくなった。 「随分と頭の悪いボスだな……」 「ナニ? キサマ今なんて言った!?」  人に馬鹿にされる立場ではない人間ゆえ、中国人は憤慨する。  そしてまさに中国人の指が銃のトリガーに掛かった時だった。  中国人の男が突然ガクリと崩れ落ちる。円城寺は目の前で突然崩れた中国人に驚き、言葉をなくしている。 「そのような物騒な物、今は出さないほうが賢明ですよ」  その中を悠々とした足取りで二人に近づく第三者の存在に、佑月も驚いた。 (いつの間に……)

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!