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油断 17
その声に円城寺の肩が僅かに上がる。そして円城寺は声の主へと振り返った。
「……君は……。この男は突然どうしたのだ」
中国人は声が出せないのか、喉元を手で押さえながら、苦しんでいる。
円城寺は事態が把握出来ないとばかりに、中国人と現れた男、泰然を何度も交互に見やる。
佑月は窓にへばりつく勢いだった体を起こし、隣に立つ滝川を見上げた。
「滝川さん、あの中国人いきなりどうしたんですか?」
「あれは、含針 術みたいなもので、泰然様が口に針を仕込み相手に吹いたのです。針には微量ですが、毒が仕込まれているので、暫くあの男は動けませんし、話すことも出来ません」
「毒……」
「ええ。ですが死ぬことはないので心配は無用ですよ」
「そ、そうですか……」
微量であの大きな躰が崩れ、声も出せない。一体どれ程の猛毒なのだろうか。佑月は恐怖で身を震わせた。
だが、死ぬことはないと知り、滝川の言葉に幾分安心し、佑月はホッと息を吐 いた。
佑月が窓の向こうに視線を戻すと、円城寺が泰然に激しく詰め寄っているところだった。
「これは一体どういうことだ! 私を嵌めるとは、目的はなんだ? 佑月か?」
「ええ、あの美しい人は、彼がご所望でしてね。どうしても必要な方なんです」
「彼とは誰だ!? っ……おい!?」
円城寺の質問には答えず、泰然は身を翻すと、驚くべき跳躍を見せた。
倉庫内に高く積み上げられた木材の上、ゆうに二メートル以上はあるが、それに飛び乗ったのだ。
そしてまるで忍者のように、軽い身のこなしで倉庫内から消えていった。
(タイランって……何者?)
カラスと呼ばれ、依頼でスリを働く人物だとしか認識がないため、佑月は色々と驚かされた。
泰然が消え、倉庫内に残った円城寺は覚醒剤が入ったジュラルミンケースと、金の入ったケースを手に持つと、急いで逃げようとする。どうにも意地汚い姿だ。
それを見た中国人は唸るが、まだ立ち上がることは出来ず、円城寺を睨み付ける事しか出来ない。
「私だ。直ぐに車を用意して……」
突然言葉を切った円城寺の顔面は蒼白になり、耳に当てていたスマートフォンがゆっくりと下ろされていく。
円城寺は自分の視界に入るものが信じられないとばかりに、その場で立ち尽くしていた。
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