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油断 19

 睨まれた須藤はもちろん動じることなく、男らを空気扱いだ。 「円城寺 政孝。覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕する」  三人の中で一番年齢が上の男が、黒い手帳を円城寺に見せる。 「……マトリ……だと」  円城寺は黒い手帳を凝視し、色を無くした唇を僅かに動かした。  そう、男三人は厚労省の麻薬取締官だ。  中村は現役時代、何かと捜査協力で三人とは顔を合わせる事が多くなり、いつしかプライベートでも酒を酌み交わす程の仲になった。  昔はマトリと警察は何かと縄張り等で不仲なこともあったが、中村はそのような体質を嫌っていた。  それは彼らも同様でいつしか縁を深めていったのだ。  そして、今回の“事”で中村は彼らに協力を要請した。もちろん二つ返事で快く受けてくれた。  彼らも大物の逮捕となれば、協力を惜しむことはないだろうが。 「私を行政の人間に売ると言うのかね! そんなことをしても無駄なのは知っているだろうが!」  円城寺は我を忘れたかのように、吠えたてる。  確かに円城寺には金や地位で、黒い(つて)もある。中村は過去にそれで苦渋を味わった。  だが今回ばかりはそうはいかない。  得意気な顔をしていた円城寺の表情は、次第に驚きが混じった困惑なものに変わる。  一人の男が目に入ったからだ。 「円城寺さん、貴方はしっかりと罪を償うべきです。貴方のお金ではもう、これは解決出来ませんので」 「佑月……?」  居ても立っても居られなくなった佑月は、滝川と共に倉庫内へと入った。  須藤が少し怒った顔でいるのが目に入るが、今は無視をするしかない。  麻薬取締官らも、佑月の登場に驚いた表情で凝視していた。 「こちらには貴方が言い逃れなども出来ない多くの証拠もあります。だからしっかりと悔いを改めて来てください」 「証拠……」  円城寺はショックを隠せず、佑月を見つめたまま顔色を無くしていく。そんな円城寺をマトリの二人が拘束する。 「貴方の所有する製薬所も捜査を始めます。そして貴方の肉声のレコーダーもこちらにあります。現に我々は先程の取引を目にしました。立派な現行犯です。我々と共に来ていただきます」 「佑月……私を裏切ったのかい? そんな事はないだろう? ほら、今なら許すから、こちらへ来なさい」  無理やり連行される円城寺だが、佑月から視線を外さず必死の形相で叫んでいる。

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