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油断 20

 肉声のレコーダーは、円城寺の部屋へ初めて入った時に、佑月が須藤からもらったスマホで録ったもの。  それを滝川へ一旦預け、中村に渡ったものは最終的に、マトリの元へと証拠として挙げてくれていたのだ。 「裏切るとは何をもって仰ってるのかは存じませんが、貴方が俺に再び近づくからこうなるんです。自分の過ちを悔やむんですね」 「そんな……なぜ……」  僅かに震える円城寺を見る佑月の目は、麻薬取締官らもゾッと震えが走るものがあった。 「……さぁ、行きますよ」  強引に円城寺を連行していく麻薬取締官らは、マフィアのボスには目もくれない。これもこの計画の一つなのだろう。 「ま、待て! 佑月! 佑月!」  円城寺は抵抗しながら佑月へと振り返り、倉庫の外へ出るまで佑月の名を叫んでいた。 (やっと……終わったんだよな……)  これで円城寺の顔を見なくて済むのだと思うと、佑月は言い知れぬ安堵の気持ちでいっぱいだった。  全てはこの時のために、そして佑月のために皆は動いてくれたのだ。 「皆さん……本当にありがとうございました」  中村から滝川に、そして再び現れマフィアのボスを拘束する泰然と、泰然の部下らしき人間。真山も倉庫内に入ってき、佑月の姿を見ると、いつもは冷たい無表情には柔らかい笑みが浮かぶ。  その一人一人に佑月は感謝の気持ちを込めていった。 「私は我々の秩序を乱されるのが、到底許せなかったからですよ。この男はこちらで処理させてもらいますので」  “目障りなマフィアがいる”と須藤が円城寺に言っていた言葉。ある男というのは泰然の事で、そしてマトリがマフィアに関わらなかったことの理由を佑月はここで理解した。  泰然は佑月に微笑んでから、須藤に視線をやり、何やら頷きあうと、ボスを抱えた部下と共に泰然は消えた。  泰然が消えると、真山と滝川が須藤と佑月に頭を下げて倉庫から出ていく。  二人きりとなった倉庫内。  佑月の心臓は再び速いリズムを刻んだ。

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