353 / 444
油断 21
「なんて顔してるんだ」
「だって……」
二、三メートル先にいる須藤。後数歩であの逞しい腕の中に戻れるのだと考えただけで、佑月は泣きそうになった。
「ほら、来い」
須藤の整った男らしい眉が少し下がり、佑月へと差し出される両手。
衝突はしたが、佑月の我が儘を全て受け入れてくれた男の広い胸。
あの場所は自分だけのものだと強く感じながら、佑月は目の端に浮かんだ涙を拳で拭った。
そして、一歩足を前に踏み出した。
その時。
須藤が何かに気付き、表情が一瞬で険しいものに変わった。
「須──」
「佑月! 伏せろ!」
須藤が叫びながら佑月へと飛び掛かったのと同時に、心の臓まで打ち震える衝撃音が、何度か佑月の鼓膜を揺さぶった。
佑月は須藤に抱きしめられた形で勢いよく床へと転がり込み、強 かに全身をぶつけた。
「うっ……」
「須藤様!?」
「ボス!! 貴様なぜ!?」
何が起こったのか理解出来ぬ中、怒号と乾いた音が倉庫内に響く。
「そ、そんな……なんで……成海佑月、てめえが死ねよ!」
金切り声が佑月の耳に入り、須藤の腕の中で声の主を探したが、その前に信じられない物が目に入り、佑月は驚愕に目を見開いた。
「す、須藤さん……?」
ぬるりと佑月の手に触れるもの。それが佑月の手のひら全てを染め上げている。
「え……う……そ……」
佑月の身体はどうしようもないほどにガタガタと震え、現実を上手く受け止められずにいた。
「佑月」
(何だよ……これ……)
「おい、佑月!」
両肩を軽く揺さぶられ、佑月はハッと須藤の顔に視線をやった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!