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油断 21

「なんて顔してるんだ」 「だって……」  二、三メートル先にいる須藤。後数歩であの逞しい腕の中に戻れるのだと考えただけで、佑月は泣きそうになった。 「ほら、来い」  須藤の整った男らしい眉が少し下がり、佑月へと差し出される両手。  衝突はしたが、佑月の我が儘を全て受け入れてくれた男の広い胸。  あの場所は自分だけのものだと強く感じながら、佑月は目の端に浮かんだ涙を拳で拭った。  そして、一歩足を前に踏み出した。  その時。  須藤が何かに気付き、表情が一瞬で険しいものに変わった。 「須──」 「佑月! 伏せろ!」  須藤が叫びながら佑月へと飛び掛かったのと同時に、心の臓まで打ち震える衝撃音が、何度か佑月の鼓膜を揺さぶった。  佑月は須藤に抱きしめられた形で勢いよく床へと転がり込み、(したた)かに全身をぶつけた。 「うっ……」 「須藤様!?」 「ボス!! 貴様なぜ!?」  何が起こったのか理解出来ぬ中、怒号と乾いた音が倉庫内に響く。 「そ、そんな……なんで……成海佑月、てめえが死ねよ!」  金切り声が佑月の耳に入り、須藤の腕の中で声の主を探したが、その前に信じられない物が目に入り、佑月は驚愕に目を見開いた。 「す、須藤さん……?」  ぬるりと佑月の手に触れるもの。それが佑月の手のひら全てを染め上げている。 「え……う……そ……」  佑月の身体はどうしようもないほどにガタガタと震え、現実を上手く受け止められずにいた。 「佑月」 (何だよ……これ……) 「おい、佑月!」  両肩を軽く揺さぶられ、佑月はハッと須藤の顔に視線をやった。

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