354 / 444
油断 22
「俺は大丈夫だ。お前は大丈夫なのか?」
そうは言うが、須藤の顔色は悪い。撃たれた場所が悪かったのか、出血が酷いのだ。
その中須藤は、右手に持っていた銃を床に置くと、佑月の身体を上半身から無事を確かめていく。
「大丈夫……じゃないでしょ……こんなに血が……」
相手の男も須藤に足を打たれたのか、脛の辺りに血を流しながら、銃口を佑月に向けているのが視界の端に入る。
だが佑月は今、目の前のことを受け入れることが精一杯だった。
佑月は震える身体で急いでネイビーのニットを脱ぐ。
「真山生け捕りだ! 滝川、平田の所へ直ぐに人を寄越せ」
その中、須藤が素早く部下に命令する。
「お願い……須藤さん、動かないで……」
真山と滝川が直ぐに動く中、佑月は須藤の撃たれた箇所にニットで押さえつける。
「佑月、泣くな……」
泣いているつもりは佑月にはなかった。須藤は佑月の涙を指で拭い、自分の心配より佑月の心配をする。
それが佑月には酷く辛く、涙が勝手に流れていたのだろう。
「いや……だ……血が……とまらない」
震える両手で押さえるネイビーのニットは、直ぐに赤黒く染まり、ずっしりと重さが増す。
「早く救急車……誰か早く救急車を!」
ややパニックに陥りながら、佑月は辺りを見回す。真山が一人の男を拘束しているのが、佑月の目に入った。
「佑月落ち着け……。真山がもう連絡を入れてる」
本当に直ぐに来るのか疑心暗鬼になりながら、佑月は真山が拘束する男に視線をやる。
数十メートル程の場所で膝を崩す男。それは、運び屋……リアンだった。
そのリアンの顔色は紙のように白く酷いものがあった。
佑月を狙ったものが、まさか須藤に当たるとは思っていなかったのだろう。
(俺のせいだ……。早く、早く病院に行かないと……)
気ばかりが急 いて佑月の苛立ちも増していく。
「須藤さん、大丈夫ですか!? 銃声が……」
泰然が慌てた様子で戻ってきたが、須藤の様子に驚きを見せる。
「泰然、約束だったな。あれの処理は任せるぞ」
須藤が立ち上がり、リアンへと顎をしゃくり泰然に言う。だが佑月の心中は、立ち上がる須藤に悲鳴を上げたい気持ちだった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!