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油断 24
「一発は腕をかすっただけだ。心配するな」
一発はかすったとは言っても、もう一発は重傷だ。こうしている今も、佑月の着ていたニットは、赤黒く染まる範囲が拡がっていく。
あの一瞬で二発も撃ち込んだリアン。佑月への殺意が相当なものであったことが、よく分かった。
その銃弾が佑月には掠りもしないで、大事な男が受けてしまったのは、胸を抉られるようだ。
「まだ来ないんですか? 早く……」
その時、上空で轟音が鳴り響いた。
真山が素早く外へと走り去っていく。
「来たようだな」
佑月を支えに歩きだす須藤を、佑月は慌てて止める。
「駄目だ! 動かないで須藤さん! ここで待ってて」
これ以上の出血は生死に関わる。現に大量の出血で須藤の体温が低い。寒気も感じるのだろう、僅かに身体が震えているのが佑月に伝わる。
(本当に……死なないよな?)
「やっとお前を取り戻して、今夜は抱き潰すつもりだったのに、残念だ」
「な……何言ってるんだよ……こんな時に」
痛みは相当なもののはずなのに、佑月を少しでも元気付けようと軽口を叩く須藤。そんな須藤を前に自分が弱気になっていては駄目だと、佑月はキュッと唇を噛みしめた。
「ちゃんと治療を受けて、元気になったら……おもいっきり抱いてください……」
こんなことを言う佑月は相当に珍しい。だから須藤は一瞬驚いた顔を見せてから、噴き出すように笑った。
「ちょ、ちょっと笑ったらダメだって!」
「覚悟しておけよ」
そう須藤が佑月に耳元で囁くと、直ぐにずっしりと須藤の身体に重みが増した。
「す……どうさん?」
支えられず佑月は須藤とともに、崩れた。
「ちょっと……須藤さん……冗談やめて……」
バタバタと倉庫内が騒がしくなる。担架を運んできた看護師と医師らは素早く須藤に駆け寄り、応急手当てを始めた。
真山に腕を取られた佑月は、ふらりと須藤から離される。
「出血が酷い。直ぐに運びます」
「お願いします。輸血が必要ならそちらに、ボスの血液のストックがあります」
真山と医師の交わされる内容に、佑月の身体は更にガタガタと震え出した。
「須藤……さん……」
担架に乗せられた須藤は、直ぐに倉庫の外へと運ばれていく。
佑月は縺 れそうになる足で、須藤を追いかける。
死なないでくれ、死なないでくれ、そう強く願いながら、須藤を乗せたヘリコプターを見えなくなるまで見送る。
そんなとき、ふと佑月の脳裏に浮かんだ言葉。
〝大切な何かを失う〟
占い雑誌に記されていた不吉な言葉。
佑月は慌てて頭から追い払った──。
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