357 / 444

いつまでも

◇  リアンを預かっていたもぐりの医師である平田は、首を切りつけられ、拘束された状態で見つかった。  傷は思ったよりも深くなかったうえ、滝川が現場近くの須藤の部下に連絡を入れ直ぐに駆け付けた為、命はどうにか助かったようだ。  何でもリアンは、奥歯を差し歯にしており、そこに小さな刃物を仕込んでいたのだ。それで平田を襲い、平田の車と、銃を盗み犯行に及んだ。  リアンを監禁する際に、平田は武器を隠し持っていないか、全身のCT検査はしたようだが、口内は歯の詰め物と認識してしまったのだ。  リアンが犯行に及んだのは、やはり佑月への憎悪。佑月から須藤と別れていなかったことを聞かされた屈辱は、相当なものだった。そして激情に駆られるまま病院を抜けたリアンは、自分専用の情報屋に監視させていた佑月の動向を、追ってきたのだ。  平田は自身の失態を深く詫びていた。  元凶であるリアンは、いま泰然がその身柄を預かっているが、その訳は、リアンが懲りずに再び動くことがあれば、泰然が処理をしたいと言っていたからだ。  泰然は大きな組織を束ねる人間だけあって、見た目を裏切り、非常に冷酷な面を持っている。そう、須藤以上に。面倒な処理を泰然がしてくれるなら、須藤にとってはありがたいことだったため任せたのだ。  リアンの今後は生きた屍となるのか、臓器をばらされるのか、どうなるのかは泰然の気分次第だが、悲惨な末路になるということには変わりない──。   「円城寺さん、此度のご協力本当にありがとうございました。ですが……」 「成海さん、私は貴方にとても感謝してます。あの男が築いたものはリセットしなくてはならない。だから、これは我々には大きなチャンスなのです。もう一度立て直し、あの男を越える企業に作り替える。男としてやりがいのある道が拓けたのですから」  円城寺の弟である弘道の顔は、言葉通りに意欲溢れるものがあった。 「そうだよ、成海さん! 僕は本当に今まで生きてきた中で一番清々しくて、幸せに満ち溢れてると言っても過言じゃないし。これも成海さんのお陰だし。ね? 櫻木」 「ええ、弘道様と樹さまの仰る通りでございます。これで円城寺家は新しく生まれ変われるのですから」  かつての主が住んでいた円城寺邸には、弘道と樹、櫻木が佑月のために集まり、そして招いてくれた。  どうしても、もう一度お礼が言いたかったこともあるが、やはり佑月らがしたことは、円城寺家に多大な損害を与えたことには変わりはなく、詫びたい気持ちが大きかった。  日本屈指の大財閥である円城寺の当主の逮捕は、世間を大いに騒がせた。  株価は大暴落し、今やまさに円城寺は奈落の底にある。  そんな現状にあるのにも関わらず、弘道はチャンスだと意気揚々と語る。その気持ちに嘘はないと、三人は伝えてくれ、佑月は少しばかり救われた気持ちになった。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!