359 / 444
いつまでも 3
佑月と陸斗も直ぐに仕事場へと向かい、会社が数社入るような大きなビルの掃除に勤しんだ。
思ってた以上に大変で、何かを考える余裕など一つもなかった。
体の疲労は相当だったが、メンタル面では負担がなく、久しぶりに充実感を得られた。
「いやぁ、助かりました。いま、インフルエンザが流行っててね。三人休んじゃって、途方に暮れていたんですが、何でも屋さんなら助けてくれると聞いたもので、連絡して良かった」
「お役に立てて光栄です。また何かございましたら、いつでもご連絡ください」
「はい。本当にありがとうございました」
午後一時から開始して、終了の五時を回った時間。ビル内の空調は適温なのだろうが、よく体を動かしたために、佑月はうっすらと汗をかいていた。
シャワーを浴びてすっきりしたいところだが、まだ佑月には仕事がある。
「佑月先輩、このあとまだ依頼あるんですよね? 大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。次の依頼は、ほら、楠木さんの話し相手だから」
「ああ、あのおばあちゃんですね。佑月先輩凄く気に入られてますよね」
「ありがたいことにね。孫と話してるみたいでホッとするらしくて」
「ほんと……佑月先輩は老若男女に好かれますね」
「そういう陸斗もお得意様いるだろ?」
「ですね」
疲れを吹き飛ばすように、佑月らは笑い合った──。
今日の仕事を終え、事務所の鍵を掛けた時、上着のポケットに入ってるスマートフォンが震えた。
「もしもし? どうした?」
『ユヅ、仕事終わったのか? ちょっと会いたいんだけど』
電話の相手は気の置けない親友、颯からだ。声に少し元気がないのが気になったが、【虹】を待ち合わせ場所に決めて、とりあえず会って確かめるかと電話を切った。
喫茶店【虹】のドアを開けると、マスターが柔和な笑みを佑月に向けた。
佑月も笑みを返し店内を見渡す。
「ユヅ、こっち」
「待たせてごめん」
窓際に二つあるボックス席の奥から、颯が立ち上がり手を振る。
佑月はコートを脱いで、颯の前に腰を下ろした。マスターがそっとブレンドを佑月と颯の前に置く。
「ありがとうございます。マスター」
「ごゆっくり」
いつもの渋い低音を聞かせて、マスターはカウンターへと静かに去っていった。香り豊かなコーヒーを口につけると、疲れが癒されていく。颯も佑月に倣うように、唇をコーヒーで湿らせた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!