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いつまでも 6

「最低だと自分でも思う。でも、あの時はとにかく怖かったんだ。だから病院にさえも近づけなかった。もし死んだらって……そればっかりで……」 「それだけが理由じゃないだろ?」  不意に背後から掛かる低い美声。あまりにも突然すぎて、佑月は驚きの面相で声の主へと振り向き、顔を上げた。  そして佑月の目に映る一人の男。 「え……」  これは夢なのだろうか。自分の願望が見せた幻なのだろうか……。  いつもは三つ揃いのスーツできっちりと着こなしているが、今はノーネクタイで、ワイシャツのボタンも上から二つほど開いている。  スーツの上着は袖を通さず羽織るだけの姿。髪もセットされていない。それなのに、ただそこに立っているだけで雄の色香が漂う男。  佑月の中で時が止まったかのように、目をそらせず微動だに出来ずにいた。 「あの……ここ、どうぞ」  颯は先ほどの来客が誰か分かっていたため、さして驚くことなく素早く席を立ち、男に席を勧める。だが男は緩く首を振り、それを断る。  佑月はそこでやっと、呆然としていた自分から抜け出した。 「す、須藤さん……なんで? 二週間は絶対安静のはず……」  血の気が引いていくような中で、佑月は須藤を見つめたまま、ふらりと腰を上げた。 「誰かさんが全く顔を見せないからな」 「それは……」  返す言葉がなく下を向く佑月を、須藤は自身へと抱き寄せた。 「っ……」  その瞬間、自分の意思など無視をし、堰を切ったかのように溢れる涙。嗚咽までもが混じる。  嘘か、真か。  佑月は須藤の存在を確かめるように、傷には触れないよう肩に顔を埋めた。 (須藤さん……須藤さん……)  須藤のいつもの甘い香りが鼻を掠め、佑月はそれをおもいっきり鼻腔に送り込んでいく。須藤の匂いは、とても安心するのだ。 「悪いな。佑月は返してもらうぞ」 「は、はい」  颯の緊張した返事。佑月は颯へと顔を上げようとしたが、須藤がそれを許さず佑月の頭は須藤の手によって固定されてしまった。  きっと今は酷い顔をしているはずだ。しかも男が男の胸の中で号泣する様は、さぞ滑稽に映るだろう。そう思うと、途端に顔を上げられなくなった。  

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