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いつまでも 9

「お前は何も分かってない」 「え……?」  須藤は俯きかけていた佑月の顎を掬い上げる。目が合った須藤の目は、真っ直ぐ射抜くような目。逸らすことは出来ない。 「俺がどれだけお前に溺れているか。いい加減分かって欲しいもんだな」 「……須藤さん」  須藤が少なからず自分に好意を寄せてくれているのは分かっていた。だが、溺れるほどと須藤の口から聞けたのは、佑月にとってどれほどの幸福感を得られたか。一生忘れられない言葉となるだろう。  佑月が嬉しいという感情のままに、須藤の手をギュッと握ると、須藤はその手を優しく、かつ、強く握り返してきた──。  車は須藤のマンションに付き、真山が直ぐにドアを開ける。須藤は直ぐに降り、真山が頭を下げる中、マンションのエントランスへと向かう。 「お疲れ様でした。お休みなさいませ」 「真山さん、ありがとうございました」  佑月が頭を下げ礼を言うと、真山は先を歩く須藤をチラリと見やってから、佑月へと少し身を寄せてきた。 「どうか激しい運動は控えて頂くよう、成海さんからもお願い致します」 「え……は……っ」  意味を理解した途端、佑月は赤面した。だが真山の心配はもっともな事だ。佑月はコクコクと何度も頷く。 「も、もちろんです」  佑月の照れが混じる中でも意気込む姿に、真山は可笑しそうに肩を揺らした。こんな真山を見るのは初めてだった佑月は驚くが、それよりも嬉しい思いの方が(まさ)った。  真山と友人付き合いは出来ないにしても、距離が少しでも縮まった気がしたからだ。 「佑月、何してる。早く来い」 「は、はい……。じゃ、真山さんお休みなさい」 「はい。では、失礼いたします」  真山は深く頭を下げると車に乗り込み、マイバッハは住宅街の光に紛れるようにして視界から消えていった。  久しぶりに入る須藤のマンション。酷く抱かれた夜以来だ。エレベーター内ではずっと無言だったため、余計に緊張が増していった。  玄関を開けて先に入っていく須藤を追いかけるように靴を脱いでいると、須藤はリビングに入る手前のホールで佑月を振り返ってきた。 「佑月」 「はい……」  呼んでおきながら、黙って見つめてくる須藤に佑月は怪訝に思ったが、直ぐに須藤から醸し出される空気に息を呑んだ。 「来い」 「……っ」  甘い空気に佑月の頬がほんのりと朱に染まる。思考まで蕩けそうになった。

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