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after story

◇  外食産業が目立つ街並みは、歩道を行き交う人々や、車の交通量も多く、決して爽やかと言えるような光景ではない。そんないつもと変わらない景色なのに、今の佑月にはキラキラと輝く(うら)らかなものに映る。  大切な人が朝起きて隣にいてくれたこと、ただそれだけのことが佑月の気持ちを高めていたからだ。  今しがた降りた高級外車を見送り、車が視界から消えると、ふとため息が一つ零れてしまった。  先ほどの麗らかな気分に水を差すようだが、佑月は昨日のことを思い出し、少し憂鬱になってしまったのだ。  今朝、須藤に交換条件を告げられた。それは一週間、須藤のマンションで過ごすということ。それは別に構わない。むしろ今は一緒にいたいからだ。  だが須藤は、条件はもう一つあると言い出した。しかもそれはまだ公表しないと言われてしまえば、良からぬ事を想像してしまい、佑月を憂鬱とさせるには十分な理由になる。  しかも佑月は須藤の身体を思ってセックスは控えたのに、交換条件を出されるのは佑月にとっては理不尽とも言える。しかも二つも。  でも今ここであれこれ考えても事態は好転しない。それにいくら須藤でも、滅茶苦茶な条件は出さないだろうと佑月は結論付け、事務所への階段に足をかけた。 「おっはようございまーす!!」 「おわっ……」  事務所のドアを開けると、いきなり目の前に陸斗、海斗、花の三人が飛び込んできた。佑月の口からは驚きのあまりに、妙な単語がもれてしまうほどの出迎えだ。 「お、おはよう。朝から元気だね」  朝といっても【J.O.A.T】の営業開始時間は十一時からで、いまは営業前だから十時半。 「見ましたよ、成海さん!」 「え?」  花が嬉しそうに笑う中、陸斗と海斗はニヤニヤと冷やかすような目で見てきている。 「須藤さん、昨日退院されたんですよね! さっき、車で送ってもらってたの見てたんです」 「あ……見られてたのか」  何だか妙に気恥ずかしくて、いい年した男が照れるという不様な姿を晒してしまっている。そんな佑月を見て花は満面の笑み。双子は更にニヤついていた。

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