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after story 4
勧められソファに座ると、母親も対面するソファに腰を下ろす。腕時計に目を落とすと五時を過ぎていた。
「ごめんなさい。ちゃんと帰ってくるように言ったんだけど」
「いえ……」
親の言うことを聞かず、遊び回る子供が素直に帰ってくるとは思えない。今日はというか、もしかするとこの依頼は打ち切るしかないかもと、佑月は胸裡で唸った。
その時母親が何かに気付いたように、腰を上げた。
「帰ってきたみたい」
「え?」
まさかという思いが顔に出ていたのだろう。母親は愉快そうな笑みを見せた。
「実は、家庭教師の先生が凄い美人だって言ったのよね。本当にこんなに綺麗な人が来てくれるとは思わなかったけど」
母親はそう言うが、美人と聞いて連想するのは、やはり女性。自分を見たら裏切られたと憤慨するに違いない。
佑月は頭を抱えたくなった。
「おかえり、まーくん。遅かったじゃない」
「まーくんって呼ぶんじゃねぇよ。帰って来てやったんだから文句言うな」
どかどかと大きな足音を鳴らして、要の息子がリビングへと入ってきた。
「それで? 美人なカテキョはどこだよ」
息子からは佑月は背中しか見えない。その背中から男だと嫌でも分かるだろう。佑月は覚悟を決めてソファから腰を上げ、息子へと振り向いた。
息子と目が合い、お互いに驚いたように目を見開いていた。
本当に高校生なのかと問いたくなるような風貌。佑月よりも背が高く、がたいも良くて、まさに〝ワイルド〟と言う言葉が似合うような男前な顔立ちをしている。
今時の高校生の発育に、自分の貧相な体が嫌になってくる。
「初めまして。成海と言います」
「お……男? だよな。男物着てるし、声も……」
息子は混乱したように、少し長めのアッシュグレーの髪を掻き乱していた。女に間違われることはしばしばあるが、ここまで混乱されると、情けない通り越して笑いそうになった。
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