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after story 5

「それじゃ、えっと……」 「あ、この子、(まさき)っていうの。ほら、まーくんちゃんと挨拶なさい」 「チッ。だからその呼び方やめろっつってんだろ」  母親を振り切って二階へと上がっていく柾。例えるならライオンのように凛々しくワイルドな高校生の息子が、人前で〝まーくん〟と呼ばれるのは少し同情してしまう。  佑月は急いで柾を追って二階へと上がった。 「なに? アンタ本当に勉強見るつもりなのか?」 「まぁ……一応」  砕けた言葉遣いになった佑月を、柾は愉快そうに口角を上げた。そして部屋に入るよう促された佑月は、遠慮なく部屋へと入る。  中は高校生らしく散らかったりしているのかと思えば、部屋には必要最低限の物しかなく、殺風景なものだった。八畳ほどの広さで、床はフローリングが剥き出しになってるから、余計に寒々と寂しさを強調している。本当に寝に帰るだけの部屋のようだ。 「なあ、それよりアンタ本当に男なのか?」 「男だよ。女に見えるの?」  何度言われてきたのだろう。このセリフ。高校生にまで言われてしまう自分が情けないが、今は亡き親からもらった大切な体だ。健康体で産んでもらえたことに感謝している。 「女……には見えねぇけど」  不躾なほどに佑月の全身に目をやり、最後にはスッと目を逸らした。 「なら、そういう事は思ってても口にしたらダメだよ」 「チッ、分かったよ」 (おや? 意外と素直だな)  吐き捨てるように言ってから柾は、一応勉強机に腰を落ち着かせた。  佑月も側にあったキャスター付きの椅子を転がし、柾の隣に座る。 「どうせカテキョなんて口実なんだから、テキトーにしてろよ」 「口実って、知ってたんだ」 「まぁな……」  その時、柾のスマホが鳴り、画面を見て軽くため息を吐いたのち柾は電話に出た。

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