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after story 7
「そうだったんだ……。ごめん、勝手に親御さんだと思ってた」
「まあ、普通家にいたらそう思うだろうし、別にいいよ。オヤジは昔っから海外ばっかで仕事だからさ、母親が寂しくてってやつで、浮気してたんだよ。んで、離婚。有りがちだろ?」
重くならないようになのか、本当に何とも思っていないのか、柾はまるで他人事のように話す。
父親は自分が留守がちのため、時々柾の様子を見てくれと、妹である恭子に頼んでいるようだ。そして数ヶ月に一度帰ってくる兄に心配掛けないように、恭子が毎度家庭教師を頼み、家に帰らせる。
それを大人しく聞く柾は、親思いで、性根はいい子なのかもしれない。
「そういや、アンタ名前なんつうの?」
柾は不意に佑月の顔を覗き込むように訊ねてきた。若干近さを感じ、佑月はさりげなく体を引く。
「成海だよ」
「それはさっき聞いた。下の名前」
そんな事を知ってどうするのだと佑月は怪訝に思ったが「佑月」と端的に答えた。
「ゆづき……漢字は?」
「漢字? そんなこと初めて訊かれた」
たまらずといった風に笑う佑月を、柾はボーッと見つめてくる。そんな柾を佑月は訝しむように見返すと、柾はハッとしたように目を逸らした。
「ほ、ほら、ゆづきっつっても、漢字は色々あんだろ?」
「確かにそうだね。えーっと……〝ゆ〟はにんべんに右、〝づき〟は空にある月」
佑月は机上にあるペンを取ると、メモ紙に声を出しながら書き込んだ。
「ふぅん……。なんかアンタらしい名前だな。佑月」
「おいおい、いきなり呼び捨て?」
「いいだろ? 別に」
「よくないよ。せめて〝さん〟を付けるとか、例えば今なら〝先生〟付けてくれてもいいけど?」
〝先生〟の単語で柾は少し人の悪い笑みを浮かべる。
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