384 / 444
after story 13
◇
結局昨夜は、須藤から奉仕される形で終わった。そう、須藤自身は何一つとして快楽を得ることはなかった。
佑月が須藤の欲を解放すると言っても、頭を縦に振ることはなかったのだ。
自分だけがすっきりとして、須藤は溜まっていく一方。それが申し訳ないと思う中でも、須藤がそこまで我慢するのは、例の交換条件のもう一つのせいなのではと勘ぐってしまう。
何にせよ、須藤の言う通りに、昨夜より遅くなるなら寝ていた方が、須藤と自分のためにもよさそうだと、佑月は一人そう決めた。
「今日も佑月ちゃんありがとぉ~」
語尾にハートマークでも付きそうな程に、親しげに甘えた声。これが女性なら可愛いと思えるだろう。
しかしその声は野太く、体格も佑月の倍はあるほどにガチムチな体型をしている。
「サナエちゃん、また何かあったらいつでも連絡してね」
「ありがとぉ~! もう、佑月ちゃん大好きよ!」
「う……ありがと……」
心は乙女でも、体格差は歴然としていて、抱きしめてくる力もかなりの強さだ。
彼女はオカマバーで働く〝サナエちゃん〟。一年程前に何でも屋なら何でもしてくれると聞き、【J.O.A.T】に依頼をしてくれた。
当時は何かと悩みが多かったサナエはグチる相手が欲しくて、一か八かで【J.O.A.T】を頼ったのだそうだ。
こういった依頼は、意見を求めるのではなく、ただ聞いて欲しい。だからほどよく相槌をうち、相手を決して否定してはならないのだ。
聞き上手な上、佑月の容姿も気に入ったサナエは、それ以来鬱憤などが溜まれば、愚痴を聞いてほしいと連絡をくれている。ほぼ、恋愛絡みの話が多いが。
こういった常連の客がいてくれるから、何でも屋の仕事も何とか上手くいっているのだ。
佑月がサナエと別れ、軽くコーヒーでも飲もうかとコンビニへ立ち寄ろうとしたとき、スーツの上着に入っているスマホが振動を伝えてきた。
「もしもし陸斗、どうした?」
『佑月先輩、今大丈夫ですか?』
「うん」
『良かった。実は……いま事務所に……』
陸斗の困惑した声を聞きながら、佑月は軽い頭痛を覚え、額を押さえた。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!