「そんなに見られたらさすがに照れるよ……」 　佑月は視線を避けるように、再び足を進めた。 「あ……いや、すげぇ綺麗……」 「え？」 　ゴニョゴニョと口ごもる柾の声に佑月は聞き返すが「何でもねぇよ！」と柾は佑月の先を歩いていった。 　雑踏の中を歩く柾の背中は、肩を少しいからせ、何だか少し照れているように見えた。 「おぉ、beautiful！！」 「……っ」 　柾の家である玄関扉を開けると、いきなりの包容が待っていた。どこかの誰かを彷彿とさせる行為に、佑月は一瞬ここは何処だと考えてしまった。 「おい、親父！　何してんだ！　触んな」 　柾によって離された身体。今しがた自分を抱き締めていた人物を見ると、佑月は思わず感嘆の声を上げそうになった。 　見た目は三十代後半から四十代前半くらいか。イケメン俳優にも負けず劣らずの美丈夫が目の前にいたからだ。 　隣で憤慨している柾をおいて、佑月は男に頭を下げた。 「初めまして。山口様からご依頼頂きました、何でも屋の成海と申します」 「あぁ、恭子から聞いてるよ。家庭教師をしてくれているだとか。しかし、こんな美人さんとは……」 「もういいだろ、親父。ほら、佑月部屋行くぞ」 「ちょっ……」 　柾に無理やり腕を引かれ、邸内へとよろめきながら入る羽目に。 「まだ挨拶が途中だよ」 「いいから」 「すみません。お邪魔します」 　佑月は引っ張れながら柾の父親に頭を軽く下げた。こんな失礼な態度にも、柾の父親は優しい笑みで返してくれた。 「親父が悪かったな」 「あ、いや……ちょっとびっくりしたけど、大丈夫だよ。でもあんな中途半端な挨拶だと失礼だろ」 「いいんだよ。あんな初対面でベタベタと。ここはアメリカじゃねぇんだよ」 　柾は制服の上着をベッドに脱ぎ捨てる。