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after story 18
佑月は駅からタクシーに乗り、目的のホテルの敷地内へと足を踏み入れた。超が付くほどの高級ホテルではないが、一泊でもそこそこの値段がする有名ホテルだ。
夜の街並みにホテルの外観は淡い色で照らし出され、存在感を存分にアピールしている。
綺麗だと内心で賛辞を送り、高層のホテルを見上げてから、佑月が一歩足を出した時。
見慣れた車が玄関先に止まってるのが目に入り、佑月の鼓動は一つ大きく跳ねた。
声を掛けに行くべきかと、逡巡していた時、玄関から二人の人物が出てきた。それを見た瞬間、佑月は咄嗟に物陰に隠れた。
その背中や脇には、冬の寒空の下でも嫌な汗が流れ落ちていった。
(誰だ……?)
息をするのも忘れてしまうほどに、佑月の意識は二人に注がれいた。
そして二人が車に乗り込み、緩やかに走る高級車を、佑月はまばたき一つもしない勢いで見つめていた。
「……ぅ……」
痛みが走る胸を押さえ、佑月の全身は衝撃に堪えるよう震えだす。
「どうして……」
嫌な考えばかりが頭に過り、今は正常に頭が働かなかった。
ホテルから出てきたのは須藤と、一人の女性。女性は終始俯いたままで顔までは見えなかったが、須藤の周りに居そうな、きらびやかで派手な女性とは少しタイプが違うようだった。
言うならば〝普通〟といった雰囲気の女性。
その女性を須藤は気遣うように背中に手を添え、エスコートしていた。しかもホテルから出てきた。
一体何しに女性と二人でホテルにいたのか……。まだ派手目の女性なら、仕事関係なのかと思える余地はあるが、どう考えても須藤とは全く交わることのないタイプの女性。だから、考えてしまうのは良からぬことばかりだった。
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