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after story 19
しかも真山の迎えの車。普通に見れば、なんて堂々とした浮気なのかと思うが、須藤ならきっとコソコソとはしないだろう。
身体を思ってのことだったが、セックスもさせてやれない恋人では不満だったのだろうか。佑月にだけ快感を与え、須藤が我慢したのは浮気相手がいたからなのだろうか。
須藤のことは信じたい気持ちがある。だが、須藤の周りには魅力的な人間が沢山いる。そして何より須藤自身が魅力的な男だ。だからいつ佑月が切られてもおかしくないのだ。
悪い方へ悪い方へと佑月の思考は流れていく。
「……きっと、何か訳があるはず……きっと……」
自分にそう言い聞かせなければ、今にも足元から崩れ落ちそうになる。ドロドロと重いタールが足元に絡み付くかのように、佑月の足は一歩足を出すだけでも苦労した──……。
「成海さん……お疲れですね。大丈夫ですか?」
BMWの車内。後部座席に座る佑月に、ルームミラー越しから心配そうに滝川が窺う。滝川に心配させるなど、自分の失態に佑月は自分を殴りたい気分だった。
「す、すみません! 大丈夫です」
咄嗟に答えた下手な返し。しくじったと思っても後の祭り。滝川は全く信じてない表情だ。
「……大丈夫じゃないでしょ? 顔色がよろしくありません。須藤様も秒単位で動いていらっしゃいます。お二人して倒れるんじゃないかと心配です」
須藤の名を聞いただけで佑月の心臓はギュッと痛む。
顔色など、こんな暗い車内では見えるはずもないが、佑月の沈鬱とした重い空気が滝川にだだ漏れ状態なのだ。
「……須藤さんは確かに忙しそうですね……。帰りも遅いし。ゆっくりしている暇もないんですか?」
「そうですね。早朝から深夜までみっちりとスケジュールが入ってます。プライベートなお時間と言ったら、ほんの数時間だけですね」
まるで探りを入れているみたいで、変に思われないだろうかと佑月は緊張していたが、滝川は別段気にした様子もなく答えをくれた。
「プライベートな時間……」
「それはもちろん成海さんとお二人で過ごされるお時間のことですよ! 本当なら、寝る間も惜しんで……なのでしょうが、今はマンションには成海さんがいらっしゃるからお帰りになってるんですよ。その方が我々も有り難いです。あ、休みたいって言ってるんじゃないですよ!」
「はい、分かってます」
滝川の明るい性格に救われる思いで、佑月は少しだけ声を溢して笑った。
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