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after story 21
結局佑月は一睡も出来ず、まだ日も登らない時間帯に、キッチンでコーヒーを入れて飲んでいた。
須藤は短時間でもぐっすりと寝られる体質なのか、いつも疲れを感じさせず肌艶がいい。体内サイクルが佑月とは全く違うのだろう。
「はぁ……どうしよう……」
「どうした。眠れないのか?」
不意に背後から掛かった声に、カップを持っていた手がビクリと震えた。
「あ……いや……うん」
目を合わせられず顔だけ須藤へと向けると、ワイシャツとスラックスの姿が目に入った。咄嗟に時計を確認するとまだ六時前だ。
「もう、出掛けるんですか?」
「あぁ少し寄りたい所があるんでな」
「……そうですか」
〝寄りたい所〟で嫌な連想が頭に浮かび、佑月は慌ててそれを打ち消すようにダイニングテーブルから腰を上げた。
「コーヒー飲みます?」
足早にキッチンへと向かい、須藤のカップを棚から出すが、返事がないことに怪訝に思い須藤へと佑月は振り返った。
「……っ」
思わず息を呑む。
須藤は壁に寄りかかり、腕を組んで佑月をじっと見ていたのだ。
数秒ほどお互いに目を逸らさず、まるで睨み合いのようになっていたが、須藤が壁から身体を離すと、ゆっくりと佑月の傍まで歩いてきた。後退仕掛ける足を必死に留める佑月の傍に、須藤が立つ。
「なぜ目を合わさない」
「……」
露骨過ぎたかと後悔したが、どうしてもちゃんと顔を見る勇気がなかったのだ。
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