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after story 30
だが不意に、滲む視界に移るはずのないものが佑月の目に入った。佑月が懸命に目をこらした時、大きな黒い影が揺らめいた。
「うわっ!?」
その瞬間には、柾の身体がまさにふっ飛んでいく勢いで、派手な音を立て壁に激突する。あまりの事に佑月は声が出せずにいた。
「いってぇー! 何だよ!」
腰を強かにぶつけたのか、しきりに腰をさすりながら、柾も突然の事で事態を把握出来ていない様子。キョロキョロと周囲を見渡し、それは直ぐに柾の目に入ったようだ。驚愕に目を見開き、そして鋭く目を細めていく。
「何だお前、なに勝手に人ん家入ってきてんだよ」
ゆらりと柾は立ち上がり対峙するが、直ぐに尻込みするように、足が一歩後退する。ここに来るはずのない男、須藤に睨まれれば、高校生の少年など到底太刀打ち出来ないと、本能が悟るのだろう。
「な……んで……」
佑月は上半身をゆっくりと起こす。須藤はゆっくりとその視線を佑月に向ける。剣呑な目付きのままで。
佑月はその目に少し畏縮しながらも、目を逸らすことはしない。佑月らの視線が絡み合うのを、柾は息を呑んでただ傍観していた。
須藤はそのまま佑月の前へと片膝を突き、はだけた胸元のシャツを乱暴にかき合わせた。そして一瞬で須藤は佑月を肩に担ぐ。
「す、須藤さん! ダメだ、下ろして! 傷が」
「だったら大人しくしてろ」
佑月は青くなる。下ろす気配が皆無の須藤に、何を言っても無駄なことは知ってるため、佑月は不本意ながらも大人しくせざるを得なかった。
「お、おい佑月?」
柾の戸惑う声がしたような気がしたが、今の佑月の心情はそれどころではない。須藤のことだけで頭がいっぱいだったからだ。
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