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after story 31
アパートの前に止まるマイバッハに、須藤は佑月を乱暴に押し込める。痛いと思う暇もなく、車は速やかに走り出す。運転する真山は心配そうに、ルームミラー越しから何度も様子を窺っている。
「あれほど男と二人きりになるなと言ったな。挙げ句に男を部屋に入れるとは、一体お前は何をしてる」
「……それは……依頼で……それに相手は高校生だから大丈夫だと思ったんです」
消え入るような声は、僅かに震えが混じる。今まで何度となく須藤を怒らせてきたが、今の佑月のメンタルは弱りきっている。ゆえに、須藤の怒りの気がとても堪えた。
「大丈夫だと思ってあの様か」
確かに警戒を怠った自分が悪い。さっき須藤から言われたが、これまでにも散々と男には気を付けろと何度も言われてきた。須藤の言ってることは、今回のことでも間違いはなかった。
だけど仕事の依頼内容を選んでいては、仕事にならない。責任者という立場もある。では、自分はどうすればいいのか。どんな職業に就こうが、男と関わらずに済む職業などないというのに。もちろん助けてもらったことには、心から感謝している。だけど、どうして自分ばかりが責められなければならないのかと、佑月は悲しくて仕方なくなる。自分の思いばかりが爆発しそうに膨らんでいく。
「ずっと……俺に見張りを付けるなんて面倒でしょう? だったら、もう……切ってくれてもいいですよ」
「なに?」
売り言葉に買い言葉。気が付けばそんな言葉を口にしていた。どうせ近々切られるのなら、自分から潔く引いた方が傷は浅くて済む。そんな安易なことまでもが浮かんでいた。
須藤に手首を掴まれ、佑月は強く引き寄せられる。都会の街並みの光のシャワーが暗い車内に降り注ぎ、須藤の表情もはっきりと分かる。時折深い陰影を作り、それが更に凄まじい嵐のような凄味を増していた。
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