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after story 32

 佑月はそんな須藤の目を見ていられなくて、スッと視線を外す。 「……須藤さん、他にいますよね?」 「何がだ」  心底に意味が分からないと言った声音。それだけではピンと来ないほどに、須藤にとっては些末なことなのだろうか。佑月の胸はズキリと痛みが走る。 「お前、何を隠してる。この間からおかしいのも何かあったからだろ?」  須藤の声が少し柔らかくなる。たったそれだけのことだが、今の佑月にはとても大きく響く。 「俺は……凄く面倒くさい男だし、沢山迷惑も掛けすぎてる。こんな自分、自分でも嫌だ。だから須藤さんから切られても仕方ないって思ってる」 「何故そんな飛躍した話になる。お前が面倒だったら、わざわざお前のアパートまで行かないがな」  佑月はそこで顔を勢いよく上げた。そうだ、須藤という人間は自分の思うままに動く人間だ。尊大で人の指図など受けない人間。そんな男がわざわざアパートに訪ねる意味は……考えなくても分かる。 「で、でも……須藤さん、女性と……」 「女?」  須藤が訝しむ中、運転する真山はハッとしたようにルームミラーから須藤を窺ってきた。佑月の言うことが全く分からない様子の須藤に、真山はおずおずと口を開いた。 「少し口を挟むことをお許しください。成海さん、その女性というのは、どちらでお見かけされました?」 「あ……その、都内の……ホテルから二人が出てくるのを見かけて……」  チラリと右隣を見遣ると須藤はまだ分からないのか、片眉を上げただけ。そんな中、真山がホッと息をついたのが分かった。

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