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after story 33

「成海さんご安心ください。その女性はボスの部下である森田と言う男の妻です」 「奥様……?」  真山が鷹揚に頷く。  真山の話では、森田は仕事で香港を訪ねていた。そこで探っていたマフィアの内部抗争に巻き込まれ、銃で撃たれたようだ。脇腹を貫通したようだが、命に別状はなく今は香港の病院に入院しているそうだ。  そしてあの日はホテルのフロントで働いている妻を、須藤が迎えに行った。部下に怪我を負わせたのは上司にも責任がある。そのため直接詫びを入れに行ったようだ。そして自身の部下に妻を預け、そのまま妻は香港入りしたようだ。 「それで様子がおかしかったのか。何故直ぐに俺に訊かない」  須藤に髪を優しく撫でられ、大きな不安に押し潰されそうだった想いが、一気に解き放たれる。佑月は込み上げるものを必死に堪えるように唇を噛む。須藤はそんな佑月を見て引き寄せると、優しく抱きしめてきた。  昨日須藤に真相を訊こうとはしたが、タイミングが合わなかった。怖くて訊けずにいた想いが大きく、ぐずぐずしていたせいだ。結局それは須藤を信じてないことにも繋がる。現に疑っていた。逆の立場なら〝なぜ信じない〟と悲しくて怒りも湧いてくるだろう。もっと責め立ててもいい立場なのに、須藤はそれ以上何も言わず、ただただ優しく佑月の背中を撫でている。 「すみません……でした」  色々伝えたい想いはあるのに、今の佑月には謝罪の言葉しか出てこない。寛容な須藤に甘えるばかりで、男として情けなくて、佑月は須藤の腕の中で項垂れていた。

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