どのくらい須藤の腕の中にいたのだろうか。気がつけば、車は須藤のマンションの地下駐車場へと入っていくところだった。いつもはマンション前で降りるのに、どうしたのかと佑月は須藤の顔を見上げた。 「車を乗り換えるから、降りろ」 「え……乗り換える？」 　真山は駐車場に車を止めると、後部座席のドアを開ける。須藤とともに車外へ出ると、真山はマイバッハの隣に駐車している高級車の後部ドアを開け、何やら荷物を移している。 「これって……ベントレーのベンテイガ……」 「ほう、知ってるのか」 「う、うん。車は結構好きだし」 　一見すると普通の高級車に見えるが、オフロード車だ。ベントレーが初めて出したSUVで注目もあったため、佑月は高揚した気分を隠せなくなっていた。先程まで凹んでたのは誰なのかとツッコミを入れたくなるほどに……。 「これから快適なドライブだ。楽しめ」 「ドライブ……何処に行くんですか？」 「いい所だ」 　何故か妙な笑みを頬に乗せる須藤。佑月は訝しげにじっと須藤を見上げる。そんな佑月を須藤は助手席のドアを開け、背中を押す。 「ちょ、ちょ、ちょっと待って！　あの、今さらなんだけど、俺手ぶらだし、アパートの鍵だって、柾くんはどうなった？」 　佑月は足を踏ん張り抵抗する。須藤は苛立たしげにグイグイと身体を押してくる。 「お前は何も心配するな。あの子供は滝川が何とかしてる」 「何とかって！？　それ、大丈夫なんですか！？」 　真山に助けを求めようとしたが、いつの間にかマイバッハごと消えていた。