406 / 444

after story 35

 佑月は愕然とする。そして、何か嫌な予感がふつふつと沸き上がる。 「須藤さん──」 「いいから早く乗れ」  有無を言わさずの圧力に、佑月は渋々と助手席に乗り込んだ。ドアを閉めると須藤は直ぐに運転席へと乗り込み、車を出す。 「せめてスマホと財布だけでも取りに戻ってもらえないですか。落ち着かないし」 「必要ない」 「……」  取り付く島もない。こうなっては諦めるしかないようだ。須藤が必要ないと言えば、何を言っても聞き入れてはくれないだろうから。  車は首都高を三十分程走ってからは、国道や県道を一時間以上ずっと走り続けている。ドライブの域を越えている。時間も二十一時をとうに過ぎている。それに車はどんどんと寂れた道を走り、前を走る車はおろか、後続車もなく、対向車も全くと言っていいほどに出会わなくなった。  ヘアピンカーブも結構な頻度であり、それを軽く流す須藤の運転技術には惚れ惚れするが、明らかにこれは何かの目的があると分かるため、佑月の不安は募る。 「す、須藤さん? 一体何処に……。そろそろ教えてくださいよ」  須藤のことは信じているが、こうも暗い夜道を容赦なく奥へ入られると、心理的に怖いものがあった。スマホも財布もない。自分を証明出来る物を所持していないことが更に恐怖を招く。 「後十分程で着く」 「十分……」  後十分ではこの山道を抜けることは出来ない。と言うことはやはり目的地はこの山中。まだ少しのわだかまりがあるせいで、車内ではあまり会話も弾まない。だから余計に佑月は戦々恐々としてしまう。  そしてついには車道の脇には草木が生い茂り、一台通るのがやっとの舗装されていない砂利道に入った。外灯も何もなく車のヘッドライトを消してしまうと深い闇が待っているだろう。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!