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after story 36
会話も弾まないまま、須藤が言っていた十分が経つ頃。
「わ……」
眼前に拡がる光景に佑月は息を呑んだ。突然開けた場所に建つ一軒の大きな洋館。程よく絞られた淡い外灯の昭明が、洋館を美しく照らし出している。ベージュを基調とした柔らかな色合いの外壁。二階の窓は大きく、柱の一本一本に施されたレリーフが見事だ。まるで異世界へ紛れ込んだかのような、暗闇に浮かぶ城のようだった。きっとここだけが開けた場所なのだろう。そして洋館から漏れる光が、誰か中に居ることを表している。
「ここは……?」
須藤は洋館の脇に車を止めると、エンジンを切った。すると恐ろしい程の静寂が襲う。
「俺の別荘だ」
静かな車内に通る低い声。聞いた瞬間、佑月は金魚のように口をパクパクとする。
「べ、別荘!?」
そして佑月はあまりの驚きに叫んでいた。そんな佑月を見て須藤は満足そうに笑う。降りるよう促され、佑月は半ば放心状態で車から降りる。
「ここを知ってるのは、真山と滝川、そして……」
「お待ちしておりました。須藤様。そして成海様」
大きなドアが突然開き、そこで恭しく頭を下げる男性。頭髪に少し白いものが混じっている。顔を上げた男性は佑月に優しく微笑みかけてきた。
佑月は「こんばんは」と慌てて頭を下げる。
「ここの管理を任せている峰倉だ」
須藤から紹介された峰倉は、恐縮したように頭を下げる。
「どんなご要望でも何なりとお申し付け下さいませ。ご滞在の間、ご不便がないよう、快適に過ごして頂けるようしっかりと勤めさせて頂きます」
折り目正しく再び二人に頭を下げる峰倉。須藤は頷き、佑月の腰に腕を回す。
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