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after story 37

「本日のご用意は全て整っております。では、ごゆるりとお過ごし下さいませ。私はこれにて失礼いたします」 「あぁ、ご苦労だった」  峰倉は須藤の車とは反対の場所に止めていた車に乗り込むと、直ぐに暗い闇の中へと消えて行った。 「入るぞ」  呆然と峰倉を見送っていた佑月を、須藤は腰を抱く力を強くし、中へと誘導する。ふらりと中へと一歩入った佑月だったが、そこで我に返った。 「ま、待って。須藤さん、滞在の間ってどういうことですか? 今夜中には帰るんですよね?」 「いや、一週間ここに滞在する」 「一週間!?」  それは何の冗談なのか。色々言いたいことがあるのに、驚き過ぎて言葉が出ない。所謂パニックというやつだ。 「帰りたいのなら、あの車で帰るしかないが。あれは三千万した車だ」 「さ……三千万……」  須藤にベンテイガのキーを渡されるが、佑月は首が飛んでいきそうな勢いで振り、キーを須藤の手に返す。  殆んど車を運転する機会もないし、それでなくてもあんな超高級車で左ハンドル。慣れない人間があのヘアピンカーブを、無事に通過出来るとは到底思えない。もし少しでも傷が付いたらと思うと血の気が引いていく。 「それに、これはあの条件の一つだ」 「条件の……一つ?」 「あぁ。お前を一週間監禁する」 「監禁!?」  我を忘れて叫ぶ佑月の声が、静かな山に反響する。だがそんな叫びは誰にも届かない。そう誰もいないのだ。ここに須藤と佑月の二人だけしか。 「た、確かに条件はあるって分かってたけど。でも、待ってくださいよ。仕事は? 須藤さん、休む間もないほど多忙でしたよね? 俺だって明日依頼入ってます。こんな……陸斗らに黙って、また迷惑掛けるじゃないですか」 「いいから佑月、中へ入れ」  須藤はボストンバッグを手に、広い玄関ホールの正面の大きな階段を上っていく。手摺にも細かなレリーフ。エンジのベルベットの絨毯が、一段一段上がる靴音を消している。佑月は玄関の扉を閉めると、納得いかないながらも、とりあえずはと須藤の後を追った。 

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