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after story 39
〝今日のために〟と目の前の男は言った。佑月は口を閉じると、静かに須藤を睨んだ。
須藤はいい。自分のペース配分で今日のために動いていたようだから。でも佑月は違う。会えない時間、どれだけ寂しかったか。どれだけ辛い想いをしたか。まあ、女のことは勘違いのせいでもあったが。
そして、仕事の事は特にそう簡単に〝はい、そうですか〟と片付けられない。今まで散々メンバーに迷惑を掛けてきたのに、また迷惑を掛ける。こんなこと許されない。
「佑月」
須藤に名前を呼ばれ、わざとらしくツイと顔を背ける。自分でも何してるんだとは思う。まるでいじけた子供のような真似をしているから。でも自分は腹を立ててるんだというアピールくらいはしたいのだ。
「佑月……分かった。だから、そう怒るな」
須藤は参ったとばかりに、ため息を交えて言う。佑月は珍しいなと思いながら須藤へと視線を戻した。須藤の整った顔は少し苦笑混じりで、本当に参ってるようだと分かり、佑月は少し肩の力を抜いた。こんな須藤を見れる日がくるとは、出会った時は夢にも思わなかった。
「だったら、説明してくれますよね?」
そう訊ねる佑月に、須藤は頷く代わりに直ぐに口を開いた。
「今回の事は、お前の事務所の人間にも協力を仰いだ」
「陸斗らに? え? どういう事?」
「一週間、お前を預かることと、仕事のサポートのことをだ」
寝耳に水。今日何度目かの驚きの表情 を須藤に見せることになった。
須藤の頭の中では、この計画は入院中に既に出来上がっていたそうだ。そう〝条件〟とは後付けのようなものだ。陸斗らは須藤が退院してから直ぐに滝川から聞かされていたようで、それを快諾したメンバー。そして佑月の穴を埋めるために、須藤の部下を再び二人充てたそうだ。あの須藤のマンションに監禁されていた時の、有能な部下を。
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