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after story 57
ずしりとどこもかしこも重く、根気が入りそうだが、立てないほどではなさそうだと佑月は腰に力を入れた。だが立った瞬間には重力を呪いたくなるほどに、全身が沈みそうになる。
佑月は今一度気合いを入れて、須藤の視線が全身に突き刺さる中、フラフラしながらもトイレに向かった。
シャワールームの続き間にトイレがあり、用を足した佑月は脱衣室であるものを探す。その際、鏡に映る自分がチラチラと目に入る。はたとそこに注視すれば、全身に小さな鬱血痕がいつもの如く沢山ついている。とくに胸の先端は未だにジンジンと熱く、赤く腫れている様は卑猥に映る。佑月は直ぐにそこから視線を剥がし、棚に目を向けた。
「ないな……」
バスローブがあるかもという期待は儚く消え散った。と、洗面台のバスケットの中にフェイスタオルがあるのが目に入る。佑月はそれを広げて長さを見てから、腰に巻いてみる。
「やった」
いつもは自身の腰の細さに情けない思いをするが、今日に限っては細くて良かったと初めて思った。巻いたところで一人だけ裸に近い状態には変わりないが、モロだし状態よりは幾分マシだ。
きっと須藤は文句を言うかもしれないが、これだけは死守したいと潔く部屋へ戻った。須藤が直ぐに佑月に気付き、一瞬にして不満そうな表情 を見せてきた。
「これくらい、いいでしょ」
須藤が口を開く前に、佑月は頑なな態度をアピールする。須藤が何か言いたげにしている中、佑月は窓の外の景色を見て驚きと困惑とで目を見開いた。
「うそ……雪……」
フラフラと窓辺に立ち、佑月は窓の外を凝視する。さっきまでは降ってなかったのに、ほんの数分でしんしんと辺りを白銀に変えている。
こんな山奥、降り続けばかなりの積雪量になるだろう。そうなれば本当にここから出られなくなる。
「降ってるな」
呑気な事を言って佑月の傍らに立った須藤。佑月はムッと口をへの字に曲げる。
「これは積もりますよ。降り続いたら帰れなくなる。須藤さんだって困るでしょ」
「困ったところで、どうしようもないだろ」
須藤らしくない答えに佑月は隣を見上げた。須藤はそんな佑月を無表情で見下ろしてくる。
〝心配するな〟と須藤ならきっと言うであろう言葉を期待していただけに、佑月は少なからずショックを受けていた。
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