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after story 64
「腹減ってないか? 後ろに峰倉が作ったサンドイッチがある」
「あ……ありがとう」
最後に食事をしたのはいつだろうか。それすらも思い出せない。まさに自堕落とも言える生活を送り、佑月は情けなさやらで溜め息を小さくこぼした。
そしてサンドイッチを頬張りながら、佑月は峰倉とは結局一度しか会ってなかった事を思い出す。毎日美味しい食事を作ってくれていたが、ほとんど食べていない時の方が多かった。気を悪くさせていたのではと心配にもなったが、あの時の自分の姿は到底人に見せれる姿ではなかった。
「峰倉さんにちゃんと御礼言いたかった」
「また夏になったら行く。その時にでも言え」
「え? あ……うん」
夏になったら行く。まだ先の予定を躊躇なく口に出され、佑月は少し驚いた。そして些細なことだが嬉しくなる。また監禁生活を強いられるのなら遠慮したいが、たった数ヶ月先の事でも、その未来図に自分がちゃんといるという事が嬉しかった。
それから帰りの車内は行きと違い、会話が妙に弾んだ。須藤は佑月と二人だと意外とよく喋る。と言っても、ほぼ佑月をからかって楽しんでるようだが。
三時間掛かる道中も退屈せずに済んだのは、そんな須藤との会話が楽しかったからだ。
「あれ? アパートじゃないの?」
見慣れた街並みはやはりどこかホッとする。沢山の高層ビルが建ち並び、慌ただしく往来する人々。出勤時間も重なり少し渋滞にも巻き込まれたが、それが一週間ぶりだと少し新鮮にも感じてしまった。
隣で運転する男に問いかけるが、返事がない。先ほどまであんなに話をしていたのに、途端に無視なのかと佑月は首を傾げた。
「アパートに戻って欲しいんだけど……」
乗せてもらってる立場のせいで、あまり強くは言えず口ごもる。聞こえているはずの須藤は何も答えず、自身のマンションの地下駐車場へと車を乗り入れた。
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