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after story 65
駐車場に車を止めた須藤は、車から降りると助手席側へと回ってきた。そしてドアを開けると、シートベルトを外し、佑月の身体を抱き抱えようとする。
「ちょ、ちょっと待って。歩くくらい出来るし」
「いいから大人しくしてろ」
こういう時はちゃんと聞こえてるのかと佑月はムッとし、須藤の胸を強く押した。
「いい。自分で歩く」
「お前を待ってたら日が暮れる」
「お、おい!」
あっという間に佑月は須藤の腕の中へと収まってしまう。意識のない時ならまだしも、こんなに意識がはっきりとした状況では恥ずかしいことこの上ない。しかも駐車場には防犯カメラが何台も設置してある。佑月は居たたまれなさで、須藤の胸に顔を埋めて隠した。
「最悪……俺だって男なのに……情けない」
「分かってる」
須藤は佑月の顔を隠すことに協力するように頭に手を置き、足早にエレベーターに乗り込んだ。
「だが見られたところでここの警備から管理は、俺の身内がやっているようなものだ。隠しても今更だがな」
「え?」
静かに上昇するエレベーター内で佑月の声が異様に響く。
「ここは俺のマンションだ」
「は!? え、そうだったの?」
「あぁ」
「全然知らなかった……」
こんな高級マンションが須藤の物。今初めて知ったことに、自分はまだ何も知らないことが多すぎるとショックを受けた。そして改めて須藤との格差というものを、突き付けられる。
「また、追々お前にはちゃんと話してやる」
「うん……」
住む世界が違うのだから、佑月に言えない事は確かに多くあるだろう。それでも少しでも教えてくれるという須藤の気持ちが、佑月にとって今は何よりも嬉しかったのだ。
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