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after story 66
「今日は出歩かず部屋にいろ。いいな? 食事は何でも好きなものを頼め」
まるで言い聞かせるかのような口調で言い、須藤は佑月をベッドに寝かせる。言われなくとも、あらゆる箇所の痛みもあるため、佑月とて出歩くことなど端から頭にはない。
「分かってますよ」
「それと何でも屋だが、俺の依頼として明日明後日の二日間を買い取った。だからゆっくりと休養しろ」
スーツに着替えながら須藤は事も無げに言う。言われた佑月は一拍遅れて驚く。
「買い取ったってどういう事?」
「その身体じゃ思うように動けないだろ? それにお前の従業員は休み無しで働いてたんだ。有給休暇だ」
「有給……」
佑月は信じられない思いで須藤を見る。本当なら、責任者でもないのに何勝手な事をしてるのかと文句を言いたいところ。だがここ最近、佑月は本当にメンバーに迷惑を掛けすぎている。休みもろくに与えられず、無理ばかり強いて。それなのに彼らは文句一つ言わない。そのことに胡座をかいているわけではないが、甘えていることには間違いなかった。
経営者としての資質の低さを幾度となく味わっているのに、成長しない自分。そんな中、彼らのことまで思いやってくれる須藤の配慮に救われた。
「ありがとう……」
「あぁ」
ネクタイをかっちりと締めた須藤は、佑月へと少しの微笑を向ける。仕事モードの須藤。一週間目にしてきたオフモードとは、やはり纏う空気が違う。
「お前の貴重品などが入った鞄は、そこのソファに置いてある。じゃあ行ってくるが、なにかあれば遠慮なく連絡してこい」
「……う、うん」
須藤は佑月の返事を聞くと直ぐに踵を返し、仕事へと向かっていった。
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