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after story 67

「俺の貴重品?」  佑月は怪訝に思う中、ベッドから床へと足をつけた。立ち上がる際、腰の痛みに息を呑み、暫く身動きが取れなくなる。 「い、痛い……」  初めて自分の足で立ち、ここまで腰を酷使していたのかと、恐ろしくなるほどの痛さを知らされる。尻もやはり痛くて、正直明日も休みで良かったと須藤に感謝さえする。  佑月はまるで老人のように、ヨボヨボとソファまで歩いていく。するとそこには須藤の言う通りに、佑月の仕事用の鞄があった。 「鞄持ってきてくれたんだ」  財布、スマホ二台、仕事用ファイルなど、中は連れ去られた時のままの状態。佑月は黒い方のスマホを出し、アドレスを呼び出し名前をタップした。 「もしもし陸斗?」  直ぐに繋がったが、陸斗は佑月に応える前に、海斗を呼んでいる。 『あ、すみません。佑月先輩お久しぶりです。一週間どうでした?』  からかいを含んだ陸斗の声音。海斗は後ろで、佑月を冷やかすことを楽しんでいるのが聞こえる。佑月は苦笑しながら、迷惑を掛けたことなどを先ず詫びた。  そして気になっていた柾の件を訊ねると、どうやら向こうから依頼を終了する旨を伝えてきたようだ。父親が大層申し訳なさそうに謝罪していたらしい。それを聞き、佑月は複雑な思いになる。 『あの一週間前、何があったんです? 急に謝られても意味が分からないですし』 「うん……本当にごめん。その事はまた会った時に話すよ」 『そうですね、分かりました』  こちらが被害者にしろ、仕事が一つ没になった原因を作ったのは佑月だ。また心配を掛けてしまうが、大まかな事は皆に伝えなければならない。情けないことこの上ないが。 「あと明日からのこと、こんな風な形でしか休みをあげられなくて本当にごめん。勝手ばっかで……」 『何言ってんですか! ほら、その……ねぇ? 佑月先輩も色々……』  口ごもる陸斗に、佑月は瞬時に赤面する。恥ずかしくて消えたくなった。

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